マンションの「総会議事録」に書いてあること、書いていないこと

「マンションは管理を買え」という言葉が広がり、ネット上には「買ってはいけないマンションの見分け方」というような記事があふれています。

管理の良し悪しを事前に見分けるために、こういった記事においては事前に幾つかの資料を取り寄せて内容を精査することを勧めています。

(これがそんなに簡単な話ではないことはこれまで何回も書きました)

今回はそういった記事において必ず触れられている「総会議事録」についです。

マンション

momo / PIXTA(ピクスタ)

 

そもそも、「総会議事録」とは?

マンションに関わる法律である区分所有法において、管理組合総会は「管理組合の最高議決機関」と位置付けられています。

総会における議決事項はすべての関係者に効力を及ぼすこととなるため、議事の経過及びその結果を記載した議事録は重要な記録です。

議事録
区分所有法の第42条において総会議事録は以下の通りと定められています。

【第四十二条】
1.集会の議事については、議長は、書面又は電磁的記録により、議事録を作成しなければならない。
2.議事録には、議事の経過の要領及びその結果を記載し、又は記録しなければならない。
3.前項の場合において、議事録が書面で作成されているときは、議長及び集会に出席した区分所有者の二人がこれに署名押印しなければならない。
4.第二項の場合において、議事録が電磁的記録で作成されているときは、当該電磁的記録に記録された情報については、議長及び集会に出席した区分所有者の二人が行う法務省令で定める署名押印に代わる措置を執らなければならない。
5.第三十三条の規定は、議事録について準用する。
(筆者注、第5項にある第33条とは規約の保管に関する条文です)

議事の経過とは、開会、議題、議案、討議の内容、表決方法、閉会等のことであり、経過の「要領」ということなので内容を逐一記載する必要はなく、要約して記載すれば足りるとされています。

 

議事録作成の流れ

議事録の作成は法令上では総会の議長である理事長の役割となっていますが、実際は管理会社のフロントが担当します。

筆者の場合、総会を終えてから会社に戻って30分で完成させたこともあれば、1日半ぐらいかかったこともあります。

メモをとる

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議事の録音はせず、その代わりに細かくメモを取るようにしていましたが、激論が交わされたような時は発言の内容を思い出すのが大変でした。

出席者からフルボッコにされたような時にも、それをいちいち思い出して書かねばならず、これはもう苦痛でしかありません。

こうして出来上がったのはあくまで議事録(案)であり、理事長及び2名の議事録署名人に回覧して内容の確認を求めます。

ここで修正が入る場合もありますが、最終的に3名の署名捺印をもらえれば議事録の完成です。

議事録が完成すると管理会社では「総会結果報告書」を作成して全区分所有者に配布します。

 

議事録に関する決まりごと

議事録
議事録は大切な書類で、管理組合の口座開設や名義変更、訴訟の提起等の様々な場面で提出を求められます。

一方で議事録は利害関係者からの請求があれば閲覧させなければならず、また保管場所をマンション内の分かりやすい場所に掲示しなければならないと定められています。

(閲覧に際しては管理組合の側で日時を指定できるとされています)

 

議事録には何が書かれているのか?

ネットの記事

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「買ってはいけないマンションの見分け方」といった類の記事ではとにかく議事録が重視され、「議事録は情報の宝庫」「議事録は管理状況を示す通信簿」「議事録を読めばそのマンションの全てがわかる」等々、ものすごい表現で形容される資料となっています。

そこで議事録には何が書かれているか、これまで100本近く(多分)議事録を書いてきた筆者が具体的にお話します。

 

・議事録に書かれていること

筆者の場合は大手と中小の2社でフロントを経験しましたが、議事録の書式についてはどちらもほぼ同じであり、恐らくほとんどの管理組合においても同様ではないかと思っています。

議事録の基本的な書式としては下記の通りとなります。

 

【「第〇号議案」●●●●に関する件】

議長の指名により管理会社担当者により総会議案書を用いて議案の説明が行われた。

質疑応答の後、議長が本議案の可否を出席者に諮ったところ、賛成多数にて議案書の内容通り承認可決された。

工事の実施を承認する議案の場合は、実施の時期、金額、発注先、支払い方法等をこの後に明記し、また四分の三以上の賛成が必要な特別決議の場合は賛成、反対、保留のそれぞれの数を記入していました。

質疑応答があれば「質疑応答の要旨」として記入しますが、あくまで要旨であり、国会の議事録のような話し言葉をほぼそのまま文字に書き起こした体裁のものではありません。総会議事録

 

・議事録に書かれていないこと

議事録は簡潔明瞭であることが求められ、そのため既に議案書に書かれている事項については省略され「議案書記載の通り」としか記入されません。

決算報告や工事の実施、修繕積立金改定といった議案の場合は議案書において詳細な資料が添付されているはずであり、同じものを議事録にも記入するのは紙の無駄でしかないのです。

総会議事録
ただし、事業計画と予算に関しては議案書に添付されているのはあくまで「案」であるため、総会で承認された正式版の事業計画書と予算書を総会結果報告書に添付します。

質疑応答に関しては個人情報やプライバシーの保護の点で注意が必要になります。

総会においてマンション内におけるトラブルに関する発言がなされた場合であっても、個人が特定されるような内容に関しては議事録には記載されません。

 

議事録は「議案書とセット」でないと意味がない

「買ってはいけないマンションの見分け方」といった類の記事ではひたすら「議事録」が強調されていますが、議事録だけをいくら読んでも財務状況も未収金の額も工事を実施しなければならなくなった事情もわかりません。

ネットの不動産関係の記事

Graphs / PIXTA(ピクスタ)

そのような事項はすべて議案書に書かれており、議事録は議案書とセットでなければ全く意味のないものなのです。

しかし、ネット上の記事をいくつも読みましたが、議事録の重要性を力説するものばかりであり、筆者が見た範囲では議案書について言及したものは一つもありませんでした。

議事録は議案書と同じ場所にファイルするものなので閲覧の場合は特に支障はありませんが、読者がネット上の記事を鵜呑みにして議事録だけ何年分も取り寄せても(これには様々な困難を乗り越える必要がある)、マンション内で一体何が起こっているかさっぱりわからないということになってしまいます。

 

ネット記事の執筆者は、議事録を読んだことがないとしか思えない

専門家

miya227 / PIXTA(ピクスタ)

ネット上で「買ってはいけないマンションの見分け方」という類の記事を書いている方のほとんどは、恐らく自分では総会議事録を読んだことがないのだろうとしか思えません。

この世界では実務を知らない人が専門家を名乗って書いた、いい加減な記事が幅を利かせているのがどうしようもない現状です。

こういった状況を少しでも変えていくため、今後も筆者の実体験に基づく正確な情報を提供し続けたいと思っております。