賃貸経営において、退去による空室の発生はもっとも大きな問題です。しかし、去るものを追えないのも事実。僕が経営を引き継いで最初の1~2年は退去が続き、リノベーションのための出費がかさみました。
予算が底をついた際に実験的におこなった「空室のシェアオフィス化」の顛末をメリットとデメリットをまじえてご紹介しようと思います。
オフィス化のメリットは工事費用の安さ!
よりによって、そのとき空室になった部屋はうちのマンションのなかでも設備がかなり古い部屋でした。
お風呂は在来、洗濯機は外置き、トイレもキッチンもかなりの旧型。
まっとうな住居として貸し出すには、それなりの工事費用をかける必要があります。
かといって現状のままでは、借り手を見つけるには、ただでさえ下がっていた家賃(8万5000円)をさらに下げねばならないでしょう。
なんとか安くリノベーションし、家賃を持ち直す方法はないものか……。
そこで思いついたのが「オフィスとして貸し出す」というアイデアです。
うちの妻はフリーランスで仕事をしており、ちょうど自分の仕事場を欲しがっていたところでした。
それなら、同じようなフリーランスの仲間を集めてシェアオフィスとして使ってもらえないかという話になりました。
借り手が妻と友人たちである、という点がポイントです。
うちのマンションは全戸が通常の住居ですから、オフィスにした場合、見知らぬ人間の出入りが増え、治安上の懸念が出てきます。
しかし、妻と友人たちが借り手なら、その不安はだいぶ減ります。

freeangle / PIXTA(ピクスタ)
そして、なんといってもオフィス化のメリットは、リノベーションの予算の大半を占める水回りの工事費用を浮かせることができる点です。
通常の住居として使用する場合、お風呂やトイレ、キッチンの設備が旧型なことや、洗濯機が外置きなのはかなりのマイナス点です。
でも、仕事場として使うのなら、そこまで大きな障害にはなりません。洗濯機置場が室内にないことにいたっては、むしろプラスでしょう。
低額工事で利便性も家賃もアップ!しかし…
妻も含め、部屋を借りる人たちと相談した結果、快適な作業環境を作ることに主眼を置き、工事予算の大半をリビングにかけることに決めました。
具体的には、
1.天井を撤去して躯体をあらわしにし、壁とあわせて白のペンキで塗装する
2.野暮ったいクッションフロアを、白い木目のフロアタイルに変更する
3.押入れと下がり壁を撤去し、通常は「6畳+3畳+押入れ」という間取りを10畳に変える

左:工事前/右:工事後
今思えばこれだけでも十分だったのですが、考えだすと「オフィス・リノベーション」としての面白さを感じてきてしまい、より使いやすいかたちにしたいという気持ちが強まってきました。
そこで思い切って古いキッチンは撤去し、簡単な食器洗いだけができるミニマムシンク(サンワカンパニーのコトーネ)を導入。

洗い物のみができるシンプルシンク
キッチンをなくしたぶん、ダイニングを打ち合わせ用のデスクを置けるゆったりとしたスペースに変更することができました。

キッチン本体がないので、打ち合わせテーブルが置けます
これで、10畳のリビングは個々のワーキングスペースに、手前のダイニングは打ち合わせスペースに割り当てられ、利便性が向上しました。
さらに、古い浴槽を撤去し、お風呂を収納スペースとして使えるようにもしました。
最終的なプラン図はこのとおり。
手を加える箇所が少ないこともあり工事はあっさり終了。かかった費用はこんな具合でした。
できれば100万円に収めたかったのが本音ですが、もともと8万5000円の家賃が10万円にアップしたので、よしとしました。
これでこの部屋はしばらく安泰だなとタカをくくっていたのですが……、このご時世、先が読めないのがフリーランスの世界。
妻といっしょにシェアしていた友人たちもそれぞれの仕事やプライベートの事情があり、一人また一人と去っていきました。
メンバーが減ると、一人あたりの負担が増えるので、維持が難しくなります。
結局2年ちょっとで、うちの妻だけが残ることになってしまいました。
やはりオフィス、特にフリーランスの集まりであるシェアオフィスは、住居と比べて人の動きが流動的なのだと痛感しました。
オフィス化のデメリットは、あともどりが難しいこと

【IWJ】Image Works Japan / PIXTA(ピクスタ)
こうなると、新たに賃貸人を募集したいところなのですが、もともと水回りが古いうえにキッチンも浴槽も撤去された部屋を住居として貸し出すには、追加の設備投資が必要です。
改めてオフィスとして借り手を募集することもありえますが、素性のよくわからないオフィスを入居させるリスクは気になります。
それに、そもそもオフィスは住居と比べてよりアクセスのいい立地が求められるので、世田谷の閑静な住宅地という立地もマイナスに働く可能性があります。
結局、妻とも話し合った結果、家賃を半額に減額し、オフィスをうちの会社でも利用させてもらう、ということで決着しました。
僕としては打ち合わせ場所やDIY作業スペースなどができたということでありがたく感じるところもありますが、やはり家賃が減ったのは経営的にはこたえます。
結論をいえば「資金難の時期を低額リノベーションでしのいだ」という意味では成功でしたが、「リカバリーのきかないオフィス専用部屋を生んでしまい最終的に家賃が下がった」という意味では失敗でした。

Graphs / PIXTA(ピクスタ)
賃貸のオフィス化は、工事費用も安く実験としても面白かったのですが、リスクも高いと思い知りました。
とくに、うちの物件のようにオフィス化を進めすぎると、通常の住居にもどすのがかなり難しくなります。
僕はあまり考えずに工事してしまいましたが、オフィス化を考える方は「住居に戻す余地を残すのか」、それとも「オフィスに特化して徹底的に工事するのか」をしっかりと考えることをオススメします。