住宅性能の「トレードオフ」にご用心!中古物件購入の際は要チェック

トレードオフ(Trade-off)という言葉をご存じですか?

経済学用語で「一方を追求すれば他方を犠牲にせざるを得ない状態・関係」の意味。

もともとはイギリスの経済学者が指摘した「失業率と物価の関係」から生まれた言葉で、失業率を抑えると(景気が回復して)物価が上昇し、物価を抑えると(景気が冷え込んで)失業率が上昇する……という状態や関係を表しています。

分かりやすくいえば、「あちらを立てれば、こちらが立たぬ」ということですね。

経済

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住宅の性能にもある「トレードオフ」の関係!

快適で安全な住まいを求めるのは、誰しも同じです。

しかし耐震性や耐久性、断熱性や気密性、耐火性や防火性、防音性や遮音性、さらにバリアフリーなどの「快適性・安全性」や家族の安全を守る「防犯性」などといった性能や機能を、すべて追求することは不可能です。

また、それらの性能や機能を追求することはコストアップにつながり、現実的ではありません。

掃き出し窓

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例えば、採光性や通風性を高めるために、あるいはリビングから庭を眺めるために、大きな窓を希望する人も多いことでしょう。

しかし窓を大きくするということは、多くの熱量が窓ガラスやサッシから家の外へ放出されることを意味し、経済的ではありません。

また大きな窓は、家の中が丸見えになるというプライバシーの侵害や防犯性の意味でもリスクが高まります。

空き巣

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さらに、にぎやかな土地に建てられた家の場合は、防音性や遮音性といったリスクがつきまといます。

このように、「採光性や通風性を追求すると、断熱性や防犯性、防音性や遮音性を犠牲にせざるを得ない」ことになり、これを住宅性能の「トレードオフ」といいます。

 

暮らしやすさと機能性のバランスを取るのは難しい

もう1つ例をあげましょう。

北欧風の住宅を希望してメインの開口部(掃き出し窓のこと)に三重ガラス窓を採用した場合は、断熱性や気密性、防犯性や防音性などは高まりますが、窓ガラス自体が重いことから、操作性や通風性などが損なわれる可能性があります。

ペット

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また小さなお子さんやペットにしてみれば、ここから出入りすることは不可能のため、とても暮らしにくい家になることでしょう。

さらに例を1つ。

繁華街に近い住宅地や犯罪が多い地域では、防犯ガラス窓を採用したり、窓や玄関ドアなどに二重~三重の鍵を設けるケースが多いようです。

これを「ワンドア・ツーロック」あるいは「ワンドア・スリーロック」などといいます。

しかしその結果、快適性や利便性、さらに高齢者やクルマ椅子を利用する人にとって暮らしにくいなどのバリアフリーの性能を低下させることにもなりかねません。

かぎ

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以上のような例を見ていくと、すべての住宅性能を高めることは不可能であることがわかります。

つまり、家を建てようとする立地条件や環境、さらに家族の構成(特に小さな子どもや高齢者など)を考慮しながら、どの性能を高めていくか、逆にどの性能は標準レベルでいいのかを決める必要があるのです。

 

国土交通省が認めた、悪しき「トレードオフ・ルール」とは?

新しい住宅省エネ基準(平成25年基準)の施行に伴い、平成27年(2015年)3月31日で旧住宅省エネ基準(平成11年基準)が完全に廃止されました。

ここで注目したいのが、旧住宅省エネ基準(次世代省エネルギー基準)に盛り込まれていた「トレードオフ・ルール」のことです。

小屋裏

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例えば、小屋裏収納やロフトのある家を建てる場合、あるいは傾斜天井や勾配天井などを採用した家を建てる場合、天井内の空間がほとんど取れず、厚い断熱材を入れることはできませんでした。

そこで国土交通省では、一部で薄くしか入れられなかった断熱材(充填断熱)を他の部分で埋め合わせをして、住宅全体のQ値(熱の損失度合い)をクリアすれば、次世代省エネルギー基準を満たした住宅であることを認めようという、「トレードオフのルール」を便宜的に採用したのです。

 

数字のマジックにご用心!

具体的に見ていくことにしましょう。

次世代省エネルギー基準では「天井の断熱材の厚さは200ミリメートル以上、窓はペアガラスで空気層の厚さは6ミリメートル以上、外壁は110ミリメートル以上」などという規定がありました。

断熱材

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しかし、トレードオフのルールを利用すると、「窓のペアガラスの性能を高め、空気層の厚さを12ミリメートル以上にすれば、天井の断熱材は半分の100ミリメートルでも良い」ということなります。

その結果、悲しい運命が新居のオーナー家族を待ち受けていました。

つまり、お金をかけて次世代省エネルギー基準の快適なマイホームを建てたはずだったのに、実際に暮らし始めてみると、(天井の断熱材が規定の半分しかないことから)屋根や天井内にこもった熱で、家の中がちっとも涼しくならない。

寒い

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逆に冬は、天井や屋根から熱が放出され、暖房があまり効かないことに気づかされたのです。

このように、数字のマジックで建物全体のQ値は変わらなくても、実際はまったく快適ではない住宅が「次世代省エネルギー基準の適合物件」として、少なからず誕生しました。

そしてその要因の1つにあげられるのが、国技交通省が認めたトレードオフのルールだといえるでしょう。

新しい住宅省エネ基準の施行によって、トレードオフのルールはなくなりました。

中古住宅

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しかし、旧住宅省エネ基準で建てられた中古住宅を購入しようとする場合は、天井や屋根に充填された断熱材の厚さにも注意する必要があります。

特に、平成11年(1999年)から平成27年(2015年)3月31日までに建てられた小屋裏収納やロフトのある一戸建て住宅をはじめとして、勾配天井や吹き抜けのある一戸建て住宅、さらに三階建て住宅などを購入する場合は、念入りに確認する必要があるでしょう。