お宅拝見

Sumai編集部

【注文住宅事例】まるでネコの家に、人間が住まわせてもらっている家

岡山県倉敷市。約270坪の広大な敷地に建つO邸。建築家でありペット共生住宅の専門家として海外でも知られている、廣瀬慶二さんに設計を依頼しました。内部は贅沢なワンルームのようで、ネコが駆け回る場所と進入禁止空間とのメリハリもつけられています。
大きな開口部の先にはネコが過ごせるパティオ、すなわちキャティオが。
室内に張り巡らされたキャットウォークや棚に隠された迷路を、アビシニアンのココとマーシャンが優雅に歩き、瀕死状態で保護したルルも今では元気に走り回っています。

建築家への要望はひとつ!「ネコ中心の家にしてほしい」

ネコが過ごせるパティオ

夏は日の出とともに起こしにくる彼女たちのトイレを片付け、朝食を食べさせたら出勤前にひと遊び。帰宅すると車の音に反応し、ドア前に整列してお出迎え。
寝るときはもちろん一緒。

足元、腕枕、お腹や背中に3匹が文字どおりOさんに寄り添って眠るのが至福の時なのです。

Oさんと猫

20代の頃からいずれは猫と暮らしたいと考え、ペット共生住宅にも住んだものの、中途半端さは否めなかったといいます。以前から設計を担当した廣瀬慶二さんの著書を読んでいて、その中の「若い猫と暮らす際、年を取った猫がプライドを持って暮らせる家をつくりたい」という一文に惹かれたそう。

廣瀬さんに伝えたのも「ネコ中心の家にしてほしい」とだけでした。

ネコ中心の家

棚からキャットウォーク、猫寝天井と縦横無尽に遊べる構成に

昨年6月に入居し、キャティオでは短い秋を過ごしました。
まもなく訪れる春のうららかな日のもと、彼女たちはここを駆け巡ったり、のんびりとひなたぼっこしたり、季節を告げる鳥や芽吹き始めた自然に包まれ、思い思いの時間を過ごします。それを眺めるOさんの幸せな笑顔まで目に浮かぶようです。

潜在能力を存分に発揮できるような猫のための設備

キャティオをはじめ、爪研ぎ柱、キャットウォーク、猫寝天井、猫地窓。この家のネコのための設備は、数えあげたらキリがありません。なのに、わざとらしくないのです。

廣瀬さんの言葉を借りるなら「家が猫々しくない」。でも機能はぎっしり。最近よくある既製品の家に付け足すようなやり方ではなく、そぎ落とすという方法論で構成されたO邸。
自然素材が多用され、住宅の性能もよく考えらています。例えば棚の最下部に設けられたケージの窓を開け放つと、植栽のある庭から冷えた風が部屋を通り、東側の窓に抜けていきます。

キャティオに面した東向きの開口部

そして、キャティオに面した東向きの開口部は、切妻屋根が直射日光を遮りながら、心地よい光だけを運んでいます。さらに「動物行動学」の観点から、ペットとの共生のあり方を考え続けてきた建築家の廣瀬さんが目指したのは、ネコの潜在能力を引き出す家。
「ネコには飼い主の知らない能力がまだまだ隠されている。それを発揮できる家をつくるのが、飼い主の義務です」。
それはネコが全力で遊べる家。

全力でジャンプして、全力で直線距離を走ることができて、全力で爪研ぎに立ち向かえる。それは土地面積に関係なく、縦方向に伸ばせば狭小住宅であっても可能だといいます。また室内飼いだとネコに悪いという気持ちが働いてしまいますが、それも間違いです。
交通事故や病気の感染を避けるためにも、ネコは「完全室内飼育」にするべきだと廣瀬さんは語ります。
「室内で引き起こす爪研ぎやマーキングといった問題行動も、こうした退屈させない空間を与えることで解消するのです」。

設計者が考える猫と楽しく暮らす工夫

Point1. キャットウォークと爪研ぎ柱

飛びつき背を伸ばして爪を研げる、サイザル麻を巻いた爪研ぎ柱。若いルルは勢いよくいちばん上まで登り、ガガガと爪を研ぎながら下りてきます。

サイザル麻を巻いた爪研ぎ柱

キャットウォークでは、歩いたり昼寝をしたり、隙間から下をのぞいたり。下からは人間が見上げてネコの姿を楽しみます。

キャットウォーク
キャットウォーク

「キャットウォークは若いネコにとっては駆け巡る道、成猫の場合は居場所をつくるという考え方。それによって、成猫でも自然と動くようになります」(廣瀬さん)

Point2. ネコ階段~吹き抜けの動線

内部に猫用階段が仕込まれた棚。

格子框開き戸

最下部の格子框開き戸は2か所だけガラス框の開き戸になっています。ここから風を取り入れられるようになっており、それが室内を通りロフトに設置された窓から抜ける風の流れを設計しています。

こちらは、猫寝天井から3Dソフトを使って設計した棚内部。
猫寝天井から3Dソフトを使って設計した棚
難解なルートも、スマートに移動できるのです。

猫寝天井から3Dソフトを使って設計した棚

猫寝天井から3Dソフトを使って設計した棚

 

Point3. ロフトからの眺めとネコ穴

キャットツリーやキャットウォークともつながるロフト。

ロフト キャット

ルートの途中に何か所か穴を開けており、ショートカットも可能です。ネコは高いところに登って、外を眺めるのが好きなので、ロフト本棚上部の窓からも外の景色眺められるようにしています。こちらは物音がしたらのぞける、ロフトの玄関側に設置した猫地窓です。

猫地窓

Point4. トレイの処理

猫トイレと猫ダイニングを上下に重ねてコンパクトにしました。

猫トイレ

トイレのそばにはゴミシューターを設置、においがついたものを流すように捨てられ、上がってくるにおいはそばに設置された換気扇でかき消すことができます。

猫トイレ換気扇

いつだって好きな場所に行ける幸せ

バスルームはバリのリゾートホテル

バスルームは、憧れだったバリのリゾートホテルのイメージで。

バスルーム
バスルーム

シャワーブースとバスタブをセパレートして、タイルの一部に自然石を混ぜたり、仕上げまでリッチ。晴れた休日の昼下がりには、お湯につかりながらキャティオでまどろむネコたちと、坪庭から豊かな緑が同時に眺められ、贅沢なバスタイムに身も心も癒やされます。

プライベートスペースはネコたちでも侵入禁止

ライベートスペース

ウォークインクロゼット兼ワークスペースはキッチン、ホールとともにネコたちは進入禁止の場所。また、寝室とリビングもシフォンのカーテンで緩やかに仕切っています。

アンティークが似合うような洗練された階段

「バリは好きだけどコテコテのリゾートというより、アンティークが似合うような洗練された感じに」というイメージ設計したそう。

大きな敷地だからかなえられた平屋造り

約45平米の広々キャティオ、大きな屋根部分はくり抜かれ、日光と雨が存分に入るように。
平屋造り

平屋造り

平屋造り

細かい縦格子が目隠しの役目を果たし、風は通しても外からは見えず、ネコもキャティオからは出られない構造になっています。
これだけ大きな敷地だからかなえられた平屋の造りになっています。

気がすむまで散歩したり、高いところへ登ったり。室内で暮らすネコには楽しく過ごしてもらいたい。そんな姿を眺めることで、飼い主も幸せになれるO邸なのです。

設計/ファウナプラス・デザイン
撮影 西岡潔
※情報は「住まいの設計2017年5-6月」取材時のものです

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