こんにちは。新宿に注文住宅を建てて暮らしている鳥と申します。
恋焦がれた四ツ谷でもないし、質に期待できない建築条件付きの家づくり。「こんな物件、さっさと白紙解除して逃げ出したい!」という気持ちでいっぱいだった鳥夫婦でしたが……?
黄昏時の西新宿
新宿くん(※土地)との婚約時、鳥は四ツ谷くん(※土地)のことが忘れられていませんでした。
婚姻届(※土地契約書)に判を押した後、四ツ谷くんが恋しくて悲しくて、電車内で泣いたのはまだ少し前のこと。
でも設計が始まると、何度も新宿くんの元へと足を運び、土地や隣家の形状などを確認しなくてはなりませんでした。
新宿くんに会いにゆくときは、せっかくなので、最寄りの地下鉄駅ではなくJR新宿駅で降りることが多かったです。
新宿駅の西口から出て、西新宿の高層ビルの谷間を散歩しながら向かう。
宵っ張りの鳥夫婦が西新宿に着くころは、いつも夕方。
あの、落日後の残り陽のなか、街灯や信号の光が潤む時間。
鳥が一番好きな時間。
西新宿のビル達も、直線的な形状をたたえたまま、美しく切なく潤んでいます。
「ああ、やっぱり、西新宿はいいなあ」
そう感じながら、何度も鳥夫と歩きました。
(もともと鳥が東京で一番好きだったところは新宿であり、四ツ谷は土地探し中に惚れたエリアでした)
西口周辺は人混みが激しいですが、5分も歩くと、もう閑散とし始めます。
オフィスビル街なので、週末は人がいないのです。
さらに歩くと、高層マンションも混じってきます。
大型の建造物は、足元に空地を作らねばならないので、広々としています。
空地には緑や水が積極的に取り入れられているので、「西新宿なんて、高層ビル街で殺伐としているのではないか」という予想に反して、意外とおっとりさが感じられるのです。
平日はサラリーマンで溢れているであろう、ビルごとにある喫茶店も、週末は空いて居心地の良いことを知りました。
精緻な高層ビル街を抜けて住宅街に入ると、庶民的で優しい空気感へと変わり、灯りの点る窓からは炊事の音が聞こえたりして。
でも振り向くと、錚々たる高層ビル街の夜景。
このギャップ。
「もしかして住むかも」と思うと、西新宿についてさらに調べるようになり、歴史・未来(再開発)・出来事・特徴など、知れば知るほど改めて魅力を感じるようになっていきました。
時間とともに気持ちは馴染んでいく
そう、建築条件付きの家造りにジタバタ飛び回っている間に、いつしか鳥の心は、四ツ谷くんから新宿くんへと移っていったのです。
別件の用事があり、数か月ぶりに四ツ谷くんに会いに行ってみたところ、
「えっ……こんな感じだったっけ……?」

ケイセイ / PIXTA(ピクスタ)
四ツ谷くん周辺の私道はかなり幅が狭めだったため、「こんな狭かったっけ……あれ……あれ……」と違和感を感じてしまったのです。
あんなに恋い焦がれていた四ツ谷の空気感にも、心がときめかない。
見上げた空に、私を取り囲んで見下ろすビル達がいない。
「ああ、私は、いつのまに新宿くんが馴染んでしまった」
と気づいた瞬間でした。
まだまだ先の話ですが、晴れて希望通りの注文住宅が建てられた直後にも、鳥は新築ブルーになりました。
でも、それも時間とともにおさまっていきました。
人の心って、このように、時間とともに順応してしまうのですね。
しかし新宿くんに気持ちが移っていったことで逆に問題が大きくなりました。
希望すれば100%叶うであろう「白紙解除する」という方針から、
「R社の仕様の家はイヤだ。でもこの土地は逃したくない。R社に建築条件を外してもらわないといけない」
という意向に変わってしまったのですから。
(鳥)
■この連載の一覧を見る■