マイペースに賃貸業を営んでいるアサクラですが、世間を賑わす不動産の話題が気になることもあります。
最近気になるのはやはり、過熱ぎみの不動産投資とそれに伴うトラブルのニュースです。
不動産投資の怖さは「おいしい話」ばかりが独り歩きしてしまい、困難やリスクが語られにくいこと。
そこで今回は、大家的視点から見た「ゼロから始める不動産投資の難しさとリスク」について考えてみたいと思います。
不動産投資はとにかくシビアな金銭感覚が必要

ナカムラ / PIXTA(ピクスタ)
うちのマンションは親族から引き継いだ古い物件を、家族みんなに助けてもらって経営しています。
ですから、賃貸経営といっても、物件を取得するための多額な初期投資がない分、ゲタをはかせてもらっての商売です。
その分、リノベーションにもメンテナンスにもしっかりと予算を割くことができています。
仮にビジネスとして少々割が合わない投資でも、自宅の延長としてマンションをとらえているので「自分の家のために使った」と思うと納得できてしまいます。

HM / PIXTA(ピクスタ)
しかし、ゼロから資金を借り、ローンを組んで不動産を取得し、それを賃貸に出すとなると事情が違います。
投資である以上、金利を含めて銀行への返済をおこない、そのうえできちんとした利益を出さねばなりません。
そのためには、とにかくお金に対するシビアな感覚を求められます。
入居者獲得のために物件は充実させたい、しかし、利益を考えるとお金はかけられない……。

freeangle / PIXTA(ピクスタ)
賃貸経営は常にこのせめぎあいにさらされるビジネスですが、不動産投資で利益を上げている人たちの話をうかがうと、みなさん、僕とは比べものにならないくらい厳しいラインで、このせめぎあいに苦しんでいます。
投資である以上、投下した資金と労力に見合う利益が出なければ意味がないのです。
僕などは利回りの計算などを見せられると頭が痛くなってしまいますが、綿密な計画なくして不動産投資はできません。
物件の維持管理にかかるお金や労力もバカにならない

アオサン / PIXTA(ピクスタ)
緻密な計画には「今後〇年のあいだに物件のメンテナンスにいくらかかるか?」という見通しも含まれます。
しかし、この見通しをつけること自体が、簡単ではありません。
水道ポンプが急に故障したり、古い電気ヒューズが飛んだり、僕が体験しただけでも予想外の出費はたくさんありました。
僕が無知だったということもありますが、こういうトラブルを予測して長期の資金計画に盛り込むのは、かなり難しいことです。
また、僕のように入居者と同じ屋根の下に暮らしていれば、トラブル発生時に自分が駆けつけることができますが、マンション投資をしている人のほとんどは物件の近くに住んでいるわけではないので、誰かに代わりに対応してもらわなければなりません。

あんみつ姫 / PIXTA(ピクスタ)
となると、業務を管理会社に委託することになりますが、そのためには管理料(家賃収入のうちの3~8%くらいといわれます)を支払わねばなりません。
管理会社選びも重要です。
うっかり質の悪い管理会社を選んでしまうと、満足のいく対応をしてもらえない可能性もあります。
うちに入居いただいた方の一人は、前に住んでいた物件で上階からの漏水があった際、遠方に住むオーナーと管理会社のたらいまわしに遭い、なかなか問題が解決せずに苦労したとおっしゃっていました。
僕個人としては、自分が子どもの頃から暮らしていた物件を管理するのにも四苦八苦していますから、よく知らない遠方の物件を購入して管理するなんてことは、ちょっと想像できません。
家賃保証で不動産投資を丸投げするリスク

sasaki106 / PIXTA(ピクスタ)
すべてを人任せにするという不動産投資も喧伝されています。たとえば、こんなセールストークを聞いたことはありませんか。
「あなたはローンだけ組んでください。できたマンション(アパート)は我々が借り上げて経営します。
ローン返済はマンションが勝手にやってくれます。ウン十年間、家賃も保証しますから心配ありません」
大家をやっている身からすると、「こんなおいしい話、あるわけないよな」とすぐわかります。
家賃というのは、まさに不動産賃貸業の生命線です。それを何十年にもわたって保証することなんてほぼ不可能な話です。

まちゃー / PIXTA(ピクスタ)
時代的に見ても、新築マンションが乱立し人口が減少に向かうなか、常に安定した家賃収入を想定すること自体、無理があります。
実際、「家賃保証」という言葉が醸し出す安心感とは裏腹に、その現実は残酷です。
不動産会社は、経済状況の変化などを理由に家賃を減額できるし、契約を解除することもできるのです。
つまり、「家賃の支払いは保証するけど、いくら払えるかはわからないよ」ということですね。
個人的には、これでは「家賃保証」とは言えないと思うのですが、法律的にはそれがまかり通ってしまうのです。
借地借家法は不動産業者の味方?

sanae / PIXTA(ピクスタ)
この「約束破り」を可能にしているのが、借地借家法(の悪用)です。
常々申し上げているとおり、現在の借地借家法は「借りる側に圧倒的に有利」にできています。
通常の個人(弱者)が、マンションやアパートという資本を持つ人間(強者)から物件を借りるという前提なら、それも一理あるのかもしれません。
大家の気まぐれで追い出されたりすれば、入居者の生活は成り立たないですよね。
しかし、不動産会社という資本力のある強者が、(相対的に見れば弱者である)オーナーから「一括借り上げ」というかたちでマンションやアパートを「借りる」場合でも、この借地借家法が適用されるわけです。
つまり、「家賃保証」のような約束を交わしても、不動産会社は法的な弱者であることを盾に、いざとなれば契約を変更・破棄することができるというわけです。
結果的に本当の弱者であるオーナーが苦境に追い込まれる事態になります。
これはルール自体に問題があると言わざるをえません。
不動産投資をするなら、すべてを人任せにせず、最低限の法律知識を持って自分を守る必要があります。
マンション経営だってリスクのあるビジネスです

しゅんちゃん / PIXTA(ピクスタ)
とまあ、いつもに比べてやや殺伐としたテーマで書きましたが、やはり「マンション経営だって、ほかのビジネスと同じでリスクがある」というきわめてあたりまえの結論に行きつきます。
うちのように、「親族から引き継いだマンションを」「子どもの頃からよく知っている地元で」「自主管理している」場合でも、それなりの出費や苦労があるわけです。
ならば、「ゼロから多額のローンを組んで」「よく知らない土地にマンションを建て」「その経営を人任せにする」ことが、いかに困難でハイリスクなことか容易に想像がつきます。
なんとなく「老後の蓄えにマンション経営」なんて考えている方もいるかもしれませんが、ゼロから始める不動産投資には、新しいビジネスを起業するくらいの心構えが必要だと思ったほうがいいでしょう。