「これを片付けなかったら、何を失う?」片付けがはかどる魔法の言葉【後編】
前回から2回にわたってご紹介しているは心理学的に見た「片付けがはかどる魔法の言葉」。
【前編】では、実験により「失うものを意識すると、人はリスクを取って行動しやすくなる」ということが分かりました。
これはノーベル経済学賞も受賞した心理学者、ダニエル・カーネマンが提唱したプロスペクト理論に基づいています。
その中に、「損失回避性」という言葉があります。
これは、人は「何かを失う」ということに堪え難い苦痛を感じる反面、「得られるもの」に対しては相当な想像力を働かせなければ実感できないということです。
心理学的に見ると、片付けは「そもそも困難な作業」だった。
片付けという作業を思い起こしてください。
いらなくなった食器を捨てたり、着なくなった洋服を捨てたり……。

Flatpit / PIXTA(ピクスタ)
基本的に、「捨てる」「処分する」というのが主な内容です。
つまり、片付けというのは、必然的に「何かを失う」という作業なのです。
「失うもの」に目を向ける以上、保守的になる。
つまり、「捨てないで取っておこう」という選択をしやすいのは、心理学的に見ても当然のことだったのです。
「ものが片付かない……」と嘆いている人が多いのは、何も不思議なことではなかったんですね。

Graphs / PIXTA(ピクスタ)
身近なところで実感できる「損失回避性」とは?
たとえば、クローゼットを片付けているとしましょう。
スペースがいっぱいなのですが、新しく買いたいコートもあります。最近あまり着ていないコートを手に、あなたは考えます。

Satoshi KOHNO / PIXTA(ピクスタ)
「このコートを処分すれば、新しいコートを買えるんだけど……」
古いコートを捨てて、新しいコートを買う。新しいものの方が綺麗ですし、流行にも合っていることでしょう。
理論的には、正しい選択と言えるはずです。でも、なぜか踏み切れない。
結果、「う〜ん、一応取っておこう」となってしまうのです。
これが、まさに心理学でいう「損失回避性」なのです。
「得るもの」より「失うもの」の方が、大きな価値を感じてしまうんです。
片付けがはかどる、心理学的に立証された「魔法の言葉」とは?
上記のようなシチュエーションで、片付けを前に進めるにはどうしたら良いのでしょうか?
実は、良い方法があります。考え方をひっくり返せば良いのです。
自分にこう問いかけてみましょう。
「このコートを処分しなかったら(新しいコートを諦めたら)、何を失うのかな?」
あまり気に入っているわけでもないコートを着続けていたら……。
年末に夫の実家に行くのに、みすぼらしく見えて面目を失ってしまうかもしれない……。
年明けに予定している旅行の楽しい気分も半減してしまうかもしれない……。
こんな風に「片付けずに取っておいたら〇〇を失う」という考え方をすると、面白いことが起こります。
さっきまで片付けを邪魔していた「損失回避性」が、急に味方をしてくれるようになるのです。
「古いコートを捨てないと、新しいコートを買えない。新しいコートを買えないと、〇〇を失ってしまう!」

Somemeans / PIXTA(ピクスタ)
子どもだましのようですが、これは本当に効果的です。
人間の心理というのは不思議なもので、カラクリが分かっていても影響を受けずにはいられないものなのです。
今までなかなか進まなかった片付けも、これで一気にはかどるようになるはず。
これこそが、片付けがはかどる魔法の言葉。
「これを片付けなかったら、何を失う?」を、今年のお大掃除には意識してみてはいかがでしょうか。
【参考】