写真家・小林キユウの森をめぐる冒険【あぁ、まさかの倒木!】
異常気象の影響なのか、昨年は例年になく大きな台風が日本列島を襲った。
キャンピングトレーラーを置いてある八ヶ岳も例外でなく、一回はほぼ直撃だった。
自宅の横浜にいながら、テレビの台風状況を見ながら、「大丈夫かな? オレのトレーラー」と不安になってしまった。
山で一番怖いものは…風!

Yama / PIXTA(ピクスタ)
山で一番怖いのは、雨ではなく、風だと思っている。
僕の土地は比較的、水はけもいいし、急斜面でもないので、土砂崩れや川の氾濫などの心配はほぼない。
でも、風は怖い。風はいきなり周辺の木を倒してしまうからだ。
立ち枯れや虫食いで元気のない木が倒れるのはしかたないが、外見は健康そのものの大きな木が台風後にいきなり倒れているのを別荘地内で目撃して、「倒木って怖い」と実感したのだ。
近所の別荘では高さ30mはあるかと思われる針葉樹が倒れこみ、バルコニーが完全に破壊されているのを見てぞっとした。
もしこれが母屋に直撃していたら、この別荘、半壊だったなと思った。
正直、倒木なんて他人ごとだと思ってた

Graphs / PIXTA(ピクスタ)
僕はこれでも長野の山国育ちで、学生時代は山岳サークル所属。
山はそれなりに知っているつもりだった。
それなら倒木の危険性も早く実感しとけよ、という話なのだが、山村の集落には観賞用の庭木がある程度で、倒木なんて見たこともなかった。
そういえば、昔、父親が2階の屋根を越える高さの庭木は縁起がよくない、と言っていたことを思い出す。
周辺の家も確かに2階の屋根を越える木はなかった。
もしかしたら、それは田舎の生活の知恵だったのかもしれない。

happyphoto / PIXTA(ピクスタ)
山登りにしても、山深いルートほどそこに家屋はないし、人工物がないから倒木を見ても自然の美しき営みとしてしか見ていなかった。
それが自分のキャンピングトレーラーを森の中に置いてみると、あれもこれも倒れてくるんじゃないかと急に不安になってくる。
そういえば昨年初夏に隣地の木が一本が倒れてきたことを思い出した。
管理事務所に連絡すると、すぐに隣地所有者に連絡してくれて処理してくれたが(こういうところは別荘地の利点だ)。
キャンピングトレーラーギリギリの位置で倒木!
さてさて、秋の大型台風が去ってからしばらくして、時間が出来たので、横浜から清里に向かった。
近づくにつれ、倒木でペシャンコになっていたら、どうしよう、と若干不安になってくる。
森の車道の最後の角を曲がって自分の土地が見えた時は正直ほっとした。なんとか無事だった。
しかし、しかし、やっぱり敷地内で倒木が発生していた。
しかもキャンピングトレーラーギリギリの距離で倒れていた。
根元から倒れ、電線にひっかり止まった倒木。
不幸中の幸いと言えるか分からないが、電線に倒れ掛かった木は東京電力が無償で処理してくれたこと。勉強になりました。
あと、倒れる方向が1.5mズレていたら、やばかった。
高さ20mほどの広葉樹。しかも、元気のある木だと思っていたのでノーマークだった。
しかし、倒れた根元部分を見てみると、内部の1/3ほどがスポンジ状になって菌に侵されていた。
そして、木は近くを走る電線にもたれかかって止まっていた。手で押してみたが、ビクともしない。
これも管理事務所に連絡だ。トホホ。
木々に囲まれているから、森。という当たり前の事実

JACK SWING / PIXTA(ピクスタ)
「もう少しで危なかったですね」。
背後でそんな声がして振り向くと、犬を連れた初老の男性がいた。
初めて見る人だったが、近くにある別荘の住人らしかった。
「この間の台風、風すごかったからねぇ。このへんもあちこちで倒れたよ」と教えてくれた。
「倒れそうな木って事前に外観で判断できるんですか?」と僕は聞いてみた。
「いやいや、それは分からないよ、だから困るんだよね」と言う。
でも、広葉樹が倒れるのは珍しいね、と言う。
「この辺では松とかモミとか針葉樹がよく倒れるね、針葉樹は根が浅いから」と教えてくれた。
見回すと、隣地に針葉樹の高木が結構あるではないか。
もし、あれが倒れてきたら、この距離ならキャンピングトレーラーまで届くな、という木が何本もある。
「まぁ、とりあえず悪天候の日はここに泊まるの止めとこうかな」とぼんやり思った。
都会暮らしでは考えもしないことだが、これも森暮らしについて回ることなのだと理解した。
そもそも木々に囲まれているから、森なんだし、この森感はやっぱり捨てがたいな、と思った。