猫の多頭飼いに必要な環境づくり、10のポイントを専門家が解説

写真/蔵プロダクション
猫は家族の一員。でも多頭飼いとなると、それぞれの猫の行動、病気対策や環境づくりなど、多頭飼い特有の悩みが増えてきます。
そこで5匹の保護猫と暮らす、建築家でペットシッターのいしまるあきこさんに教えてもらいました。
猫と建築の豊富な知識をもとに解説してくれた、人と複数の猫がハッピーに暮らす10のポイント。ぜひ参考にしてください。
1. 多頭飼いは3匹までがおすすめ。猫は縄張り意識が強い

写真/蔵プロダクション
猫はなわばり意識が非常に強く、基本的に多頭の状態はストレスを感じます。シェアハウスに他人同士が暮らしているようなイメージでしょうか。
また、動物行動学では4匹以上になると1匹は仲間はずれが出ると考えられていますので、3匹までがベストといえそうです。
もし多頭飼育を始めるなら、きょうだい猫を迎えるのがおすすめ。猫は一度に4~6匹程度産む動物で、きょうだい猫同士は大人になってからも仲良くいられる場合が多いです(ただし、全頭を避妊・去勢した場合)。
きょうだい猫は保護猫団体やブリーダーさんから譲ってもらいましょう。
先住猫がいる場合、さらに頭数を増やすことは安易に考えないでください。
2. 猫は仲がよくても将来悪くなることも十分ありうる

写真/ねこのいえ設計室
2匹からを「多頭」と考えましょう。1匹だけならごはんを取られたりトイレを邪魔されたりする心配がないのですが、2匹以上になると猫同士の関係性が生まれます。
すごく仲が良いのと、ほどほどに良いのと、どう見ても仲が悪いのとでは考え方を変える必要があります。また、今は仲がよくても悪くなる可能性があることは知っておいた方が良いことです。
理由ははっきりしませんが、一緒に眠るほど仲が良かったのに、うちでも急に「しま」が「みけ」を襲うようになってしまいました。苦労して訓練して、1年ほどかけてようやく元の状態に近付いてきました。
3. 猫同士、互いに距離を保てる空間を用意する

写真/蔵プロダクション
仲がいい者同士はくっついていますが、基本は猫同士が距離を取り合えるスペースが必要です。広い家では居場所を平面的に確保できますが、面積が限られているなら上下方向も考えたほうがいいと思います。
キャットタワーなど猫専用のものがなくても、収納が段々になっている程度でもオーケー。猫が上に上がるのは周りを見渡して安心感を得るためです。
しかし高いところが好きな猫ばかりではなく、広々したところが好きな猫もいます。隠れられる場所をつくりすぎると、隠れてばかりいる猫が出てくるのでほどほどに!
4. 行き止まりのない猫の動線を確保する

五反田・Tビル(デザイン:ねこのいえ設計室)
わが家は梁を伝って回遊ができるようにするなど、なるべく行き止まりがないように意識して猫の動線をつくりました。
でも、キャットウォークを部屋全面に巡らしたりすると、夢中になりすぎて追いかけっこが止まらなくなり、手に負えなくなります。
猫社会だけで完結してしまうと、人との共存関係も薄らぎます。猫同士の影響力はとても強く、一度野性のスイッチが入ると人に近寄らなくなってしまうこともあります。

五反田・Tビル(デザイン:ねこのいえ設計室)
5. 猫の清潔を保ちやすい環境をつくる

撮影/水谷綾子
猫毛対策は、1年中必須。短毛種でも毎日猫毛が抜けますし、長毛種ではブラッシングの手伝いも必要です。
猫の毛についた唾液が猫アレルギーの原因になるといわれているので、長く猫と暮らすためにこまめに掃除はしたいものです。
家具の裏や、家具と家具の隙間に、猫の毛やホコリが入り込んでしまうので、わが家ではできるだけ床に家具を置かないようにしています。

撮影/水谷綾子
また家具がなければ掃除がラクですし、ロボット掃除機に任せることも可能です。「ねこだな」の棚板の上のホコリを払う程度なら負担を感じずにでき、毎日清潔な状態を保てます。
6. 猫にとって理想のトイレの数は、1匹あたり1個+1個

写真/蔵プロダクション
仲がよければ共有も可能ですが、排泄で縄張りの主張もする大切な場。環境が気に入らないと別のところにしてしまうこともあります。
仲が悪いと待ち伏せをして排泄させないよう嫌がらせすることや、最も無防備になる排泄中に襲ったりすることもあります。
わが家では建物の状況から、5匹で大きな浅型のプラケース2か所を共有しています。広さにゆとりをもたせ、何かあったときに逃げやすいよう「猫くぐり」を2か所に増やしました。
7. 本能に訴えるストレス発散方法

撮影/水谷綾子
もともと猫は狩りでつかまえた小動物を食べて暮らしてきました。それを活かして、私は猫用の羽根のおもちゃで「狩りごっこ」をしてからごはんの時間をとります。
ネズミ・トリ・ヘビ・カエルなどの動きを真似て羽根を動かすと、猫たちは嬉々として追いかけます。性格や運動能力に合わせて難易度を変え、興味とやる気を引き出しましょう。
また、猫は嗅覚がすぐれた動物です。窓から外を眺められるだけではなく、少しの時間でも窓を開けて外のニオイを嗅ぐことができると、刺激を得て日々の満足度が高まります。
脱走防止柵などを設けつつ、うまく猫の好奇心を満たしてください。
8. ごはんと水は猫の個性に合わせて変える
ごはんは5匹の好みや体質に合わせて変えています。決まった時間にあげ、30分程度で食べなかった分はさげます。くいしんぼうの子が食べ過ぎて肥満になり、食が細い子が痩せていくことを防ぐため多頭では必要な対応です。
特に食が細くて困っている場合は、ドライフードのほかに、ウェットフードを温めて香りを強めたり、鶏肉をサッと湯通しして温めたものをあげると喜ぶ場合が多いです。
猫の祖先は乾燥した地域で暮らし、捕まえた獲物の体液から水分を補給してきたため、水を積極的に飲む習慣があまりありません。
ドライフードだけだと水分が足りなくなるので、通り道に水を複数箇所置きたくさん飲むよう工夫しましょう。
9. 温熱環境の快適さも大事。新築や改築時には床暖房の導入がおすすめ

写真/蔵プロダクション
猫は快適なところに集まります。床が温かくてやわらかなところをつくると、自然に集まってきます。新築や改築をするなら、床暖房を入れるのがおすすめです。
猫によって好みの室温があるので、家の中に多少は温度差があったほうが、自分なりの居心地のよい場所を探して過ごすことができます。
長時間留守になる場合は、停電で空調が止まることも想定して対策をしましょう。夏は1か所だけでも窓が開けられるようにしておくなど、涼しい場所を確保してください。
冬は寝床に湯たんぽを置いておくと安心です。
10. 床や壁、インテリアには、猫にも人にもやさしい素材を選ぶ

撮影/水谷綾子
わが家の壁・天井に塗った土佐漆喰は水に強く消臭・調湿効果があり、固くて爪を研がないのでおすすめです。
フローリングは、長毛の猫は足裏の毛で滑りやすく、抜けた毛も舞いやすいため、部分的にカーペットを敷くといいでしょう。その場合、爪が引っかかりにくいカットパイルを選んでください。
私は、猫専用の商品はあまり置かないようにしています。わが家のインテリアに合わないからです。猫はニオイと音で状況を判断するので、派手な色や形は猫にとっては重要ではありません。
科学的な香料は猫もアレルギーを起こすことがあるので要注意です。
猫を家の中だけで飼う人が増えたのは最近のこと。人も猫も付き合い方を探っている状況です。猫がどんな動物なのか、習性を理解してお互い暮らしやすい環境をつくりましょう。
工務店や建築士、インテリアデザイナーなどの専門家に依頼するときは、猫と暮らし、自分で世話をしている人を選ぶのがベストです。
●教えてくれた人/いしまるあきこさん
一級建築士・ペットシッター。5匹の猫と暮らしながら、猫との幸せな住まいを探求中。主宰する「ねこのいえ設計室」では、猫向け住まいの設計や飼い主と行う猫向けDIYも。猫向け賃貸「ねこのいえ」シリーズを企画・運営し、猫シッターとして人や猫からの信頼も厚い
※情報は「住まいの設計2019年2月号」取材時のものです