インテリア・雑貨

深澤 将深澤 将

あなたの知らないデザイナーズチェアの世界/ラ・シェーズ

そもそも、椅子とはなんだろう。この椅子を見るたびに、根本的な問いが頭をよぎります。

その形は空に浮かぶ雲のようであり、深海に生息する貝のようでもあります。

緩やかな曲線と真ん中に空いた穴の具合は、サルヴァドール・ダリが絵画に配置したモチーフともそっくりです。おまけに色まで白。

いや、ちょっと待った。何かのオカルト写真でも見たことがあるような……。

そうだ、エクトプラズムだ。どことなくオバケのような、この世のものとは思えぬ気配がするのも納得です。

「ローコスト家具デザイン」がテーマだった!?

ラ・シェーズ

この椅子の名は、ラ・シェーズ。デザインしたのは、かの有名なイームズ夫妻です。

世間への初お目見えは1948年。ニューヨーク近代美術館(MOMA)主催のコンペティションへの出品でした。

すでに家具デザインの業界で名声を獲得していた夫妻による出品に、責任者は頭を抱えたに違いありません。

やはり、冒頭のような形而上学的問題で?

そうではありません。コンペティションのテーマが、「ローコスト家具デザイン」だったのです。

このデザイン、見るからにローコストでの実現は難しそう。

実際に、発表当時の技術では製作の難易度が高すぎて、製品化自体が見送られるという憂き目にあいます。

とてもローコストどころの話ではありません。

元ネタは彫刻作品

ラ・シェーズ

奇怪な形状のこの椅子には、実は元ネタがあります。

彫刻家であるガストン・ラシェーズの作品、「フローティング・フィギュア」です。興味のある方はぜひ調べてみてください。

ラ・シェーズがこの作品をベースにしているのは一目瞭然ですが、逆にこの彫刻を元に椅子をデザインしようと思いついたイームズ夫妻の鬼才っぷりに脱帽させられること間違いなしです。

ちなみにフローティング・フィギュアは7体つくられており、現在ではニューヨーク近代美術館をはじめ世界各地の美術館に所蔵されています。

フランスで生まれたガストン・ラシェーズは、独特の様式で生命力あふれる女性の肉体美を表現しました。

アメリカに渡って創作活動を続け、急性白血病のため1935年没。

その後の第二次世界大戦を経て、戦後初の展覧会が1947年にニューヨークで開催されます。

奇しくも、世は第二派フェミニズムと呼ばれる女性解放思想の勃興前夜。

男性主導の社会に疑義を呈し、女性による社会参画を推進していこう。そんな空気が醸造されはじめていた時代です。

女性の生命力を迫力たっぷりに表現した彼の彫刻は、時代の鼓動と呼応しあっていたのかもしれません。(ちなみにフェミニズムという概念も、ガストン・ラシェーズと同郷のフランス生まれです)

展覧会の翌年となる1948年、イームズ夫妻によるラ・シェーズが発表されます。

イームズ夫妻の茶目っ気が垣間見えるネーミング

ラ・シェーズ

ラ・シェーズという名前は、彫刻家ラシェーズに由来するのでしょうか。

もちろんそれもありますが、フランス語では椅子のことを、ずばりそのままラ・シェーズといいます。

つまりダブルミーニング。イームズ夫妻の茶目っ気が垣間見えるネーミングです。

加工技術の進歩でラ・シェーズが量産可能になり、一般向けに市販されたのはイームズ夫妻の死後のこと。

製品として世に出るのを見届けることはできなかったものの、生前のレイ・イームズ氏一番のお気に入り作品だったと言われています。

蛇足を承知で付け足せば、レイ・イームズは妻の方。

デザイナーだけでなく、アーティストや映画監督としても活躍しました。

女性による社会進出の先陣を切った彼女は、この椅子に座って何を想っていたのでしょう。

そんな空想に浸るのも、デザイナーズチェアの楽しみ方かもしれません。

 

CGイラスト・文 深澤将(インテリアコーディネーター)

【参考】
※ オーストラリア国立美術館
※ MoMA Art and artist
※ 九州産業大学芸術学部デザイン学科 椅子資料解説

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