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深澤 将深澤 将

あなたの知らないデザイナーズチェアの世界/LC4シェーズロング

小説や脚本で最も嫌われる手法のひとつが「ご都合主義」だといわれます。思い通りの方向に話を進めるために筋を無理やり捻じ曲げれば、口コミサイトには星1つのレビューがあふれることになりかねません。

ところが古代ローマでは様子が違ったそう。市民に好まれたギリシャ悲劇では、登場人物たちにさまざまな災難が降りかかり、もはやこれまで……というところで全知全能の神が登場。すべてを丸くおさめるという次第。ご都合主義の鑑のようなこの手法のことを「デウス・エクス・マキナ(機械仕掛けの神)」と呼びました。

時は流れて1929年。LC4と名付けられた寝椅子が注目を集めます。

芸術コンクールで注目を集めたLC4

LC4シェーズロング

LC4はフランスで開催された、サロン・ドートンヌで発表されました。デザイナーとしては、ル・コルビュジェを筆頭に、同じ事務所に在籍したピエール・ジャンヌレ、シャルロット・ペリアンの3名が名を連ねています。ちなみにサロン・ドートンヌはただの見本市とは違い、芸術性が評価基準の展覧会です。

それもそのはず、近代絵画の巨匠と呼ばれるマティスやルオーが若かりし頃、サマリテーヌ百貨店をパトロンに始めたのがサロン・ドートンヌ。展覧会というより、芸術コンクールといったほうが的確かもしれません。

「新製品の発表に、芸術コンクール?」と思ってしまいますよね。製品としての椅子=芸術というのが直結しないのは、今の私たちの感覚でとらえているからかもしれません。コルビュジェはサロン・ドートンヌの常連でした。過去にも、先進的な都市計画案やビルの改装案で出展しています。

20世紀初頭は、スチールやガラスなどの新技術の登場によって、建築や家具のコンセプトが激しく揺れ動いた時代です。新たな発想や、それに基づく製品を発表するためには、芸術コンクールも適切な場だったのです。

それを差し置いても、この寝椅子。現代的な感覚から見ても、美術作品として発表されても違和感のないほど美しいプロポーションではないでしょうか。座り心地も申し分なく、腰掛けると降りるのが惜しく感じられるほど。

「休養のための機械である」とは?

LC4シェーズロング

この素晴らしき寝椅子について、コルビュジェ自身が評していわく「休養のための機械である」。「機械」とは、なんだか冷たい響きを感じませんか? 「もうちょっと他の言葉があったのでは……」と思うのが正直なところ。

しかし、これもやはり時代背景の違いといえます。「人間の寸法に合わせて物を設計する」という概念が、今よりずっと希薄な時代です。コルビュジェはモデュロールと名付けた独自の規格を用いて、合理的な設計方法を確立しようと奮闘します。

「なんとなくオシャレな感じ」ではなく、「美しくて使いやすく、その理由が論理的に説明できる」というのが彼の目指す設計でした。このように考えると「機械=装置」としてとらえたほうが良さそうです。

適切な場所に、適切な部品があり、期待した通りの効果が得られるというのは、家具の設計において革新的な概念だったのです。

現代にも響くデザイン哲学

LC4シェーズロング

そうそう、冒頭の、ギリシャ悲劇で使われた「デウス・エクス・マキナ」。「マキナ」はマシン(機械)の語源となるラテン語ですが、元々の意味は「装置」に近い概念です。神(の役をした人)を移動させるための舞台装置を指しました。ギリシャ悲劇は、そのご都合主義な一面にもかかわらず現代人を魅了してやみません。

発表から1世紀近くが経とうとしているLC4とそのデザイン哲学も、やはり現代の私たちに響くものがあります。言葉は、時代とともにその意味を少しずつ変えていきます。しかし、それは表層的なもの。感動や美しさという本質は、普遍的なのかもしれません。

※参考 
『デウス・ エクス・ マキーナ』
『マティスとルオー 友情の手紙』

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