インテリア・雑貨

深澤 将深澤 将

無色の椅子「ルイゴースト」から、色について考えた

「あなたの好きな色は?」と聞かれて、どんな色を思い浮かべますか?
ある人は赤、ある人は青。色の好みはさまざまです。もちろん、「黒」や「白」と答えても、驚かれるようなことはありません。

では、「無色」はどうでしょうか?

イタリアの家具ブランド「カルテル」には「ルイゴースト」という無色の椅子があります。インテリアコーディネーターの深澤将さんに、この「無色」の椅子について教えてもらいます。

古代ギリシャに始まった色の分類

ルイゴースト

こちらが無色の椅子「ルイゴースト」。「色の無い状態=無色」ですが、これは色と呼べるのでしょうか?

「色とは何か?」「光は何色でできているのか?」「色を系統立てて分類できるか?」

これらの疑問には、古代ギリシャの時代から大勢の科学者や思想家が挑んできました。そして「色を扱う際に参考にすると便利な分類」はいくつかあるものの、「唯一の絶対的に正しい答え」は、現在でもまだ出ているとは言いがたいのです。

遺跡

frenta / PIXTA(ピクスタ)

色彩理論の始まりは、古代ギリシャのアリストテレスに遡ります。

「万学の祖」と呼ばれたアリストテレスは、現代でいう物理学や生物学などの礎を築いた哲学者として知られています。彼は色彩について「光と闇の間で生起し、白と黒の間にさまざまな色がある」という考えを述べました。

この色彩理論は長く受け継がれ、レオナルド・ダ・ヴィンチも著作『絵画論』の中で、色彩を「白・黄・緑・青・赤・黒」という6つの序列に分ける理論を展開しています。

しかし、彼の説明はこう続きます。「学者たちの中には、白も黒も色として数えない者もいる。」

色彩理論を飛躍させたニュートン

プリズム

Maksim Kostenko / PIXTA(ピクスタ)

万有引力の法則で有名なアイザック・ニュートンは、プリズムを用いて光を分析したことでも知られています。可視光線に含まれる色合いを分析して、波長の短い紫から、波長の長い赤までの「スペクトル」と呼ばれるグラデーションになっていることを発見しました。

私たちが日常的に使っている「紫外線」「赤外線」という言葉も、それぞれ「紫(赤)よりも波長が短い(長い)ため、目に見えない光」という概念を表しており、この元となる理論を発表したのがニュートンでした。

意外と身近な光のスペクトルですが、かつて「色」として数えられていた白や黒は、一体どこに行ってしまったのでしょう?

ゲーテの活躍で「白・黒」が復活!

ゲーテ像

旅人 / PIXTA(ピクスタ)

ヨハン・ヴォルフガング・ゲーテといえば、『ファウスト』『若きウェルテルの悩み』といった戯曲や文学作品で知られていますが、実は色彩理論の世界でも功績を残しています。

彼はニュートンの実験に疑問を持ち、「人間の感覚が知覚できているのに、光のスペクトルに含まれていない色がある」という主張を武器にオリジナルの色彩理論を発表しました。

インテリアや建築に限らず、色を扱うプロなら必ず目にしたことがある「マンセル色相環」や「オストワルト表色系」と呼ばれる色の分類があります。これは、ゲーテが『色彩論』の中で発表した色相環を発展させた概念であり、現在でも信頼されている理論のひとつです。

一体、何が正しい色彩理論なのか?

ルイゴースト

さて、冒頭の「無色という色はあるか?」という疑問。「色が無い」とは、どのような状況なのでしょう。そもそも、人間は「無」を認識することなど、できるのでしょうか?

「無色の椅子」といえば真っ先に思い浮かべる人が多いであろう椅子が、このルイゴーストです。

16世紀末から17世紀初頭のヨーロッパでは、バロック様式と呼ばれるスタイルが隆盛を極めます。バロック様式を端的に表現するならば、「華美で重厚で権威的」。デザインには楕円や幾何学が用いられ、見る者を威圧するような迫力が特徴です。

さすがにそのままでは現代のモダン建築にはなかなか合わせにくいのですが、このバロック様式のデザインを上手にアップデートしたのがフランス人デザイナー、フィリップ・スタルクでした。イタリアの家具ブランド、カルテルで生産しており、日本でも購入することができます。

ちなみに商品名の「ルイ」とは、フランス国王ルイ15世のこと。「太陽王」と呼ばれた父・ルイ14世のあとを継ぎ、フランス王国を統治した人物です。
しかし、彼の時代には財政難などにより王政の勢いに陰りが見えはじめます。あとを継いだ孫のルイ16世の時代には、王政に対する民衆の反発は決定的なものとなりました。

かの有名なマリー・アントワネットの時代です。王政は革命によって倒され、近代の始まりを告げる鐘が鳴り響くことになったのです。

日本的に言えば「盛者必衰、諸行無常の響あり」といったところでしょう。

いまは「色彩としての地位がない無色」ですが、いつか知的な革命によって色彩の王座に君臨する日が来るかもしれません。

 

【参考】
※ 『黒の服飾史』

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