今回は、東京の浅草からほど近い蔵前の地に今年9月にオープンしたばかりのホテル「NO SERVICE HOTEL(ノー・サービス・ホテル)」をご紹介します。
住宅からオフィス、店舗まで幅広くリノベーション・デザインを手がける「オフィス・エコー」の江本響さんが、ご自身の事務所に併設するかたちでオープンした2部屋だけの小さなホテルです。
「ノー・サービス」と謳う名称も含め、面白そうな匂いがプンプンします。
オープン前に宿泊体験させていただき、江本さんにお話をうかがってきました。
「自分がいいと思うもの」をかたちにしたホテル
「NO SERVICE HOTEL」があるのは、浅草からひと駅の蔵前。

都営大江戸線蔵前駅が最寄り駅
スカイツリーもこのあたりから見ると大きく見えて驚きます。

厩橋からスカイツリーをのぞむ
蔵前駅から歩いてすぐ、徒歩3分くらいの場所にホテルがあります。
うっかりすると通り過ぎてしまうような控えめな「HOTEL」というサイン。近づいてみると…、
「NO SERVICE HOTEL」の文字が。
こちらの建物、4階建てになっていて、2階が江本さんの事務所である「オフィス・エコー」、3階と4階がホテルになっています。
ワンフロアに1室ですから、たった2室のみの小さなホテルです。
今回は、江本さんにお部屋を案内していただきながら話をうかがいました。

オフィス・エコー 江本響さん
こちらの事務所に移転されたのは2019年のはじめのこと。
物件探しの段階からホテルを始めることを念頭に置いていたそうです。
どうしてご自分でホテルを始めようと思ったんでしょうか?
「設計は、ひとりひとりのお客さんと向き合う仕事です。たくさんの仕事をこなしていくうちに、自分自身がいいと思うものを作ってみたいと思う気持ちが大きくなりました」
設計の仕事はクリエイティブな仕事であると同時に、さまざまなお客さんの要望に応えていくサービス業でもあります。
自分がいいと思うものを追求するには、自分自身が施主になるという選択がベストだったのでしょう。
ホテルなのに「ノーサービス」な理由って?
にしても、「NO SERVICE HOTEL(ノー・サービス・ホテル)」とは思いきったネーミングですよね?
「人的なサービスをほんどしないというのがこのホテルのコンセプトなので、それをそのままネーミングにしました」
ホテルといえばサービス業の代表のようなイメージがありますから、意外な感じもします。
「最近の宿泊施設は1階にラウンジがあったりして、宿泊客同士の交流を押し出すところも多いのですが、僕自身がそういうのが得意ではなくて。交流とかつながりとかコミュニケーションよりも[泊まる]ことに集中できるような心地よい隠れ家的なホテルをつくりたかったんです」
そのため、チェックイン/チェックアウトはお客さんだけでも完結できる仕組みが整えられました。
ドアハンドルにはテンキーが設置されています。
予約時にもらった番号を入力すると、部屋に入れるキーレスな仕組み。
オートロックなので、チェックアウト時はそのままでOK。
カギを置き忘れたりする心配もないので、かえって安心かも。
実際に泊まりましたが、まったく不自由がありませんでした。
さっと来てさっと泊まれるというムダのなさは、個人的にはホテルよりも気楽で心地よく感じたほどです。
江本さん曰く「No Service,but Comfortable」とのこと。
では、お部屋のなかを拝見してみましょう。
リノベーションならではの制約を活かしたインテリアデザイン
僕が泊まったのは、3階にある「301」。
ホテルとは思えない広々とした空間と、土間から3段になったステップ式の床が目を引きますね。
「水回りを設置する関係で床を上げる必要があって段差を設けたのですが、結果的には正解でした」
リノベーションでよく聞く話ではありますが、制約を逆手に取ってスタイリッシュに仕上げるのはさすが設計のプロですね。
既存の床を剥がしたままの土間の質感とパーケットのフローリングの組み合わせもヤバイです。
振り返って入口まわりを見るとディテールの宝庫。板壁に設置された小ぶりの時計や、
3つならんだ丸型ライト、
そして、これ。
入口側のライトの配管を靴ベラやブラシの収納に流用しています。
「見せる配管」は最近のリノベの定番となりつつありますが、こういう利用法もあるんですね。
間取りもベッドもゆったりで寝心地は最高
ベッドはクイーンサイズでゆったりふかふかで最高でした。
ふだんダブルベッドで寝ている僕ら夫婦には、このプラス30センチがうれしいです。
クイーンサイズなのに、ベッドまわりが狭苦しくないのも素晴らしい。間取りはというと、こんな感じ。
27平米ということで、ふつうのホテルとくらべてもかなりゆったり、ミニマムなビジネスホテルの倍近くある広さです。
個人的に目を引かれたのがレトロモダンな照明。
以前リノベーションしたヴィンテージマンションで不要になったものを譲り受けたそうです。
プロともなると、そういう入手ルートもあるわけか。
国際通りに面しているとあって、最初は夜の騒音を心配していましたが、思ったより静かでした。
鉄筋のビルですし、浅草の喧騒から適度に離れているおかげでしょう。
騒音といえば、この日は上階に小さいお子さんを含めた家族連れが宿泊すると聞いていましたが、足音もほとんど気になりませんでした。
窓の外は大通りながら、並木の緑も目に入り、眺望もなかなかです。
ただ遮るものがないので、朝の眩しさは気になりました。
カーテンを閉めた状態で朝7時でこの明るさ。
個人的にはすっきり目覚められたのでよかったのですが、チェックアウトギリギリまで寝ていたい人にはちょっと眩しいかもしれませんね。
洗面とシャワーも広々&スタイリッシュ
続いては水回り。
こちらも細部までこだわって作られています。
正方形の白タイルにグレーの目地がステキです。
ボトルラベルもオリジナルなんですって。ディテールにこだわるだけで、印象は変わります。
特筆すべきは「約100×約120」という広々シャワーユニット。
もう少し広ければ最小ユニットバスも入るところに、あえてシャワーだけを設置したのが最高にぜいたく。
ホテルですし、浴槽付きの狭い浴室よりも断然こちらが正解だと思います。
「シャワーユニットはいろいろ探した末にタカラスタンダードにたどりつきました。サイズオーダーもできますし、シンプルでデザインも安っぽさがないです」
これならムダなくスペースが活用できますね。
気になる宿泊料金は一室で一泊21,000円から
ごらんのとおり、ゆったりとした空間と細部までこだわったインテリアで、心地よい気分が味わえるホテルですが、気になる宿泊料金は一泊21,000円から。
一室あたりの料金ですから、2人で泊まっても価格は変わりません。
1人だとハードルが高い金額ですが、2人ならばノーマルなホテルと大差ない宿泊料金ですし、立地の良さまで含めると安いすらと言えそうです。
「泊まる人にお得感を感じて、リピーターになってもらいたい」という気持ちからの価格設定だそうですが、採算は取れるんでしょうか。
次回は、気になるお金の話や古いビルの活用などについて話をうかがいます。
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※ 取材協力 オフィス・エコー