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日傘作家・ひがしちかさんの本棚を拝見!「本の価値は、自分にしか分からない」

一点ものの日傘、雨傘が華やかに

クローゼットや机の引き出しと同様、なんだか覗いてみたくなる他人の本棚。各界の大の本好きに、普段は見せない「奥の院」を見せていただきます。(取材・文/大平一枝  撮影/本城直季

「本の価値は、自分にしか分からない」

傘をつくっているので、それにちなんで、雨や傘に関する絵本を、ぼちぼちと集めている

「20歳くらいまで、長い文章が読めなかったのです」
日傘作家のひがしちかさんは、朗らかに、意外な過去を語る。一行一行の意味を考え込んでしまうタイプで、なかなか前に進めなかったらしい。「これなら読めるんじゃない?」と、ほぼ同時期に別々の友人からすすめられたのが坂口安吾の『白痴』だ。
「それがおもしろくて! そこから谷崎や太宰にハマりました」

小さな頃から図鑑が好き。今は仕事の参考にもなるので、植物や動物の図鑑をよく見る。写真集、画集も好き

アトリエの間仕切り壁。器、写真、布、手紙、スケッチなどが独特の配置で並ぶ

日傘屋コシラエルを立ち上げた頃は、シングルマザーで幼い娘を抱え、お金も時間もなかった。行きつけのビストロに、ピカソの画集『Gongora』があった。モノクロで描かれた女性の美しさに魅了され、通うたびに、穴が開くほど眺めていたら「これ、あげるよ」と5年後、店主に言われた。

行きつけのビストロにあったピカソの画集に心をつかまれ、何年か通って、とうとう譲ってもらった。いまだに飽きない

またあるとき、橋口穣二の写真集『職』を友達の家で見つけ、おしゃべりも忘れて見入った。その1か月後、アトリエの自作の本棚をふと見ると、その本が。友達が遊びに来た折に、サプライズでそっと置いていったのだった。

左は友達から。右は2〜3年前、神保町の古書店で入手。多様な無名の人たちを撮った写真集というコンセプトが共通している

月6万円しか収入がない頃、書店で一目惚れし、何回か通って迷った末に、5000円で買ったのはダイアン・アーバスの写真集だ。

生まれて初めて買った写真集。同性愛者など偏見を受けがちな被写体を正面から捉えたダイアン・アーバスの代表作である。

「今はそれほど迷わずに買えますが、あの頃は何かと引き換えにしないと買えなかった。そのときと今と、所有する喜びが少し違うような気がしますね。本の価値は、自分にしか分からないもの。50円の古本が、かけがえのない宝物になることもありますし」

本の価値には、「そのときの自分」が投影される。彼女の本についてのひとつひとつの話がおもしろいのは、歩んできた道や哲学が透けて見えるからだろう。

娘に買って今は読まなくなった絵本も自分が好きなものばかりで今は自分の本棚に。『暮しの手帖』は一時期集めていた

母でも仕事人でもない、つかの間の時間を楽しむ

最近よく読むのは本音を綴った女性のエッセイ。美人に税金をかけろというような佐野洋子さんの機智に飛んだ表現が好き

図案やモチーフを考えるときよく開く、野山の草花の図鑑。アイデアはスタッフが出社する前の早朝に練ることが多い

書店で魅了され、購入した『Tori』(YAMAMOTO MASAO)。墨絵のように美しく静謐な写真の数々

2号店を開いたばかりでのんびりする間もないひがしさんにとって、エッセイが、目下の「唯一の娯楽」とのこと。

「食べ物、恋愛、テレビのニュース。身近なことを、独特の視点で描く佐野洋子さんや井上荒野さんなどは特に好き。佐野さんは、『人間が月に行ってどうにかしようなんて気が触れている。月は眺めて、かぐや姫やうさぎがいるのではと想像するものだ』って。おもしろいですよねえ!」

母でも仕事人でもない、つかの間の時間を楽しむ。本が暮らしの中にいい塩梅にとけ込んでいる。

友人の力を借りて、照明器具も、傘に穴をあけてDIY

布用、水彩、アクリルなど傘に描くときの道具はワゴンに集約

 

ひがしさんへのQ&A

Q この本棚は?
A ここはもともと金型屋さんの倉庫で、足もとに小さな段差があって本棚を置けなかったのです。だから苦肉の策で、友達からもらった本棚を解体し、壁に棚板を自分で取り付けました。ホームセンターで買い足した板もあるので、よく見ると厚さが違います。

Q  影響を受けた作家は?
A 坂口安吾の『白痴』で、読書に目覚めました。

Q どんなタイミングで書店に行きますか?
A 下の子も小さく、仕事も忙しいので、なかなか行けなくて。古本屋さんには立ち寄ることが多いですね。アトリエの近所にも何軒かいいお店があるんですよ。

ひがしちかさん
日傘作家・コシラエル主宰。1981年、長崎県生まれ。文化服装学院卒業後、アパレルブランドを経て、2010年、「日傘屋 Coci la elle(コシラエル)」の展示会を初開催。手描きや刺繍の独創的で美しい傘が熱く注目される。’15年、清澄白河に「コシラエル」本店、2017年には2号店「スワン」を開店。著書『かさ』(青幻舎)発売中。

※情報は「リライフプラスvol.25」取材時のものです

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