インテリア・雑貨

内野 チエ内野 チエ

ADスティーブ・ナカムラさんの本棚を拝見!「自分が特別に好きなもの以外は所有しない」

クローゼットや机の引き出しと同様、なんだか覗いてみたくなる他人の本棚。各界の大の本好きに、普段は見せない「奥の院」を見せていただきます。(取材・文/大平一枝  撮影/本城直季

「本やレコードに、あまりセンチメンタルな感情をもちません」

アメリカ西海岸のひなびたジャズのレコード屋で、大学生のスティーブ・ナカムラさんはアルバイトをしていた。1日にくる客はひとりかふたり。30分話してなにも買わずに帰る客もいる。あるとき、老人が古いレコードを詰めた箱を抱えて来た。「家を掃除したいから、これ買ってくれないか?」

ティナ・ブルックスのレコードがちらりと見えた。数十万円の価値のある名盤だった。働きながら、店にある60〜70年代のレコードのすべてを聴きつくすほどジャズ好きなスティーブさんは、そのほかにも高価な盤が何枚もあるのが分かった。「いくらほしいですか?」と客に尋ねた。「1000円でいい」。それを自分のものにしてほかの店で全部売り払い、デート代に使ったという今や時効の話を教えてくれた。

どんなにレアで他者がいいというものでも、自分が特別に好きなもの以外は所有しない。

「ティナ・ブルックスもそこまで好きじゃなかった。あのころからものの価値観が変わってきましたね。ものに対してセンチメンタルな感情をあまりもたなくなった」。

リビングの書棚はGiulio Polvaraデザイン(カルテル社)の『Modular Bookshelf』シェルビング・システム。デザインされたのは1975 年。イタリア製

リビングの書棚はGiulio Polvaraデザイン(カルテル社)の『Modular Bookshelf』シェルビング・システム。デザインされたのは1975年。イタリア製

本もそうだ。読んだらすぐに売る。巨大な書棚を想像して行ったら、リビングと仕事部屋にひとつずつ。その殆どは、中学校の図書館で見つけて以来魅了され続けているオランダの画家カレル・アペルなど、昔から好きな作家の作品集やアートブックだ。「好きなものは子どもの頃から変わらない」と言う彼の長く愛した大好きな本だけが緩やかに並ぶ。

学生時代から手放せないアーティストの画集や写真集、作品集を中心に収納。小説など、その他の本は基本的に読んだら売る

学生時代から手放せないアーティストの画集や写真集、作品集を中心に収納。小説など、その他の本は基本的に読んだら売る

「雑貨はごみになってしまうので、買わないようにしている」。ヘルムート・ニュートン、ヨーゼフ・ボイスの作品集が並ぶ

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10年後も古くならない作品を

芸術家集団コブラのメンバーで、オランダの画家カレル・アペルは中学生の頃から好き。色やフォルムに今も魅了され続けている

芸術家集団コブラのメンバーで、オランダの画家カレル・アペルは中学生の頃から好き。色やフォルムに今も魅了され続けている

ファッションデザイナー、カステルバジャックの作品集『J.C. deCastelbajac』。彼のデザインしたワゴンも仕事場で愛用中

ファッションデザイナー、カステルバジャックの作品集『J.C. deCastelbajac』。彼のデザインしたワゴンも仕事場で愛用中

オランダのグラフィックデザイナー、カレル・マルテンス。「70 年代の作品集は今見てもタイムレスでモダン。本の神様だよね」

オランダのグラフィックデザイナー、カレル・マルテンス。「70年代の作品集は今見てもタイムレスでモダン。本の神様だよね」

大学時代は日本の小説にハマり、とくに大江健三郎を愛読。『個人的な問題』を英訳で読んだ。安部公房も惹かれる作家のひとり

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ジョン・チェンバレンは、車のスクラップ素材の彫刻などで知られる。 自由で奇想天外な発想から大きな刺激を受けている

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撮影のためにアパートを借りて1か月人を住まわせるなど、コンセプチュアルアートで知られる美術家ジェフ・ウォールの作品集

撮影のためにアパートを借りて1か月人を住まわせるなど、コンセプチュアルアートで知られる美術家ジェフ・ウォールの作品集

たとえばデビューから5年間担当したきゃりーぱみゅぱみゅのCDジャケットのアートワークなど、自分の手掛けた作品を、買った人にずっと持っていてほしいとは特に思っていないという。

「彼女の仕事はタイミングが大事。終わったら次にスイッチを切り替える。コレクションしてもらうということより、10年後も飽きないもの、古くならないものをつくりたいと思っています。だから流行と一緒のものはつくりません」

センチメンタルではなく、時代を超えて人を魅了するものへの強い敬愛が感じられた。

植物を育てるのに熱中していた頃の名残

植物を育てるのに熱中していた頃の名残

パトリシア・ウルキオがデザインしたソファ。彼女の家具を見たくてイタリアの仕事を入れたことも

パトリシア・ウルキオラがデザインしたソファ。彼女の家具を見たくてイタリアの仕事を入れたことも

B&B のソファの赤が、リビングのアクセントカラーに

B&B のソファの赤が、リビングのアクセントカラーに

スティーブ・ナカムラさんへのQ&A

Q どんなタイミングで本を買いますか?
A 週に2冊のこともあれば、1か月に1冊のこともあり、まちまちです。何かインスピレーションが欲しい時に本屋に行って買います

Q 影響を受けた作家は?
A 1920年代にドイツで活躍した写真家アウグスト・サンダーの『Citizens of the 20th Century』と、安部公房の『砂の女』

Q 好きな書店は?
A 神保町の小宮山書店と、ボヘミアンギルドです。どちらも現代アートや写真集、美術書が充実しています

Q 本を買うときの基準は?
A コレクターアイテムとしての本が欲しいときに買います。仕事の資料は、ほとんどネットリサーチですが、たまに買います

「スタジオを併設できるような広いところに引越したいんだ」とナカムラさん

STEVE NAKAMURAさん
アートディレクター。1973 年、ロサンゼルス生まれ。CENTRAL SAINT MARTINS卒。
2015年からラフォーレ原宿の年間広告メインビジュアルのアートディレクターを務める。きゃりーぱみゅぱみゅのCDジャケットは、2011年のデビューから5年間アートディレクションを担当。2016年、食品サンプルをテーマにした写真集『NEARLY ETERNAL』を出版し、話題に。

※情報は「リライフプラスvol.27」取材時のものです

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