オアシスのような東京の花屋/marmelo (マルメロ)
東京には、オアシスのような花屋がたくさんあります。
なぜ仕事として花屋を選んだのか、日々どんな思いで草花や客と向き合っているのか。
都内でも注目の花屋を作家・エッセイストの大平一枝さんがたずね歩きます。
(取材・文/大平一枝 撮影/佐々木孝憲)
きどらないセンスが光る、アトリエのような店
渋谷まで電車で6分なのに、各駅停車しか停まらないためか、昔ながらの商店が点在し、静かな住宅街が広がる池ノ上。 小野寺千絵さんは隣駅の下北沢の花屋で6年働いたあと、不動産屋に紹介された1軒目で、ここを借りようと決めた。
「ひとりでやるのにちょうどいい広さというのが決め手でした。飲食店やホテルなどの生け込みの仕事や、市場への仕入れにも都心に近いので便利。にぎやかな下北沢とはだいぶ違うのでみんなに心配されましたが、結果、すごくよかったんです」
ドライフラワーのランプシェードは小野寺さんのハンドメイド。
店を始めると、この街に暮らす人々の穏やかで洗練された佇まいに気づいた。
「例えば会社帰りの50〜60代の男性のお客さまが奥さんに定期的に小さな花のアレンジを買っていかれたり、夫婦でいらしたり。自宅用に花を楽しまれる方も多いですね。年齢問わず皆さん、とっても 身ぎれいで穏やかなんです。ここに開いてよかったなあと、しみじみ実感します」
きっかけを忘れるくらい幼い頃から「花屋になろう」と決めていた。10年の花屋勤務を経て、独立。数坪のアトリエのようなこの店は、彼女の夢の結晶だ。どぎつい色より淡い色が好きで、子どもからお年寄りまで気軽に立ち寄れる店にしたいと語る。
小野寺さんが手にしているのは「ブロンズチャーム」というチューリップの原種。「球根がついているほうが長く楽しめますし、飾り方もグラスやカップなどいろいろアレンジできます」。
きどってはいないが、花のセレクトやディスプレイに独特のセンスが光る。おしゃれでありながら肩の力が抜けた居心地のよい花屋とこの街の相性が抜群なのは、よくわかる気がした。
店は、パソコン教室だった物件を大工の友人に改装してもらった。
多肉やミニサボテンも揃う。「ディスプレイは修業時代によく読んでいた洋書の写真集の影響を受けているかもしれません」。
アンティークのマグを鉢に使うなど、ディスプレイのヒントがあちこちに。
6年前の開店時からつくっているハーバリウムもオリジナル商品。 乾燥した花とピュアオイルでつくる。
【marmelo(マルメロ)】
東京都世田谷区代沢2-36-30 廣井ビル1F 電話番号 03・5787・8963 営業時間 11:00〜19:00 ※月・火定休(営業日時はInstagram等で確認を)
※情報は「リライフプラスvol.36」取材時のものです