オアシスのような東京の花屋/malta(マルタ)
東京には、オアシスのような花屋がたくさんあります。
なぜ仕事として花屋を選んだのか、日々どんな思いで草花や客と向き合っているのか。
都内でも注目の花屋を作家・エッセイストの大平一枝さんがたずね歩きます。
自然に逆らわず生活に寄り添う花を
東京・世田谷の住宅地に忽然と、すがすがしい緑と瀟洒な集合住宅群が現れる。もとは森としょうゆ工場があった。店の前のシンボルツリーはシイノキ。大木を残しながら、住宅と店舗につくり変えた。
店主の布山瞳さんが持っているのはミニ胡蝶蘭。根つきで、霧吹きをするだけでも1か月ほど持つそう。「胡蝶蘭はお祝いごと用と思われがちですが、飾り方や見せ方を変えるとガラッと表情が変わります」と布山さん。
薬箱がディスプレイのアクセントになった店内。
「借景に助けられています。3年前の入居時は迷いましたが、大きな場所を借りると仕事が縮小しにくい、と友達に言われて。周りもフリーの方が多いですし、 なにより新代田のお客さまはみな大人。 今まで一度も嫌な思いをしたことがないのです」(布山さん)
家の植物の話をしていく老婦人。花瓶を持ってきて1〜2輪だけ毎週買うひとり暮らしの女の子。気持ちのいい空気を残し、誰もが笑顔で店をあとにする。
「観葉植物をひとつは持っているというお客さまが多いので、少し個性的なふた鉢めをご提案することが多いです」と布山さん。天井から下がるのはコウモリラン。
「実は、コロナの影響でウエディングの仕事のキャンセルが続いたことで、 あらためてこの街やお客さまの魅力を感じました」(布山さん)
それまでは出張が多く、 店はアトリエ代わりの不定期営業だった。2020年4月以降営業日を定め、ゆっくり接客できるようになった。「地方のお仕事は減りましたが、コロナで得たことは大きいです」。
仏炎苞(ぶつえんほう)の鮮やかな赤が印象的なアンスリウムは千葉産。国産は希少だそう。
押し花を、デンマークのブランド「ムーベ」のフレームで額装。購入もできる。ドライフラワーはアフリカ製のバッグに。
ドライフラワーやリース、サシェなどの雑貨も扱う。
「2つの花瓶に生けて、ちょっと位置をずらして置いたり、時計や小さな置物を添えると、かっちりしすぎず落ち着いた空間になるのでおすすめです」と布山さん。オブジェはカイ・ボイスン。
店のモットーは、季節に逆らわないことだ。だから花用冷蔵庫はない。
「店で冷やせても、ご自宅でくたびれてしまったら悲しいので。季節に馴染む、生活に根ざしたお花を大切にしたいです」(布山さん)
設立10年目。木々や街や客の魅力もあろうが、この厳しい時代に順調に営めてきたのは、ぶれない信条と彼女の謙虚な人柄、そして朗らかな笑顔によるところが大きいと私はみている。
【malta(マルタ)】
東京都世田谷区羽根木1-21-27 亀甲新 #59 電話番号 03・6265・8966 営業時間 12:00~19:00 ※13:00〜18:00(水〜金)、10:00〜18:00(土、日・月・火定休(臨時休業あり)
※情報は「リライフプラスvol.38」掲載時のものです。
取材・文/大平一枝 撮影/佐々木孝憲