家づくり

Sumai編集部

コラムニスト・犬山紙子さん「これからの家づくりには余白と自分の聖域が必要に」

コラムニストの犬山紙子さんと建築家の駒田由香さん

家の中で過ごす時間が増えたことで、住まいの快適さの定義が変わりつつあります。夫と3歳の娘さんと暮らすコラムニストの犬山紙子さんが、コロナ下で気づいた住まいの問題点とは?

距離感を大切にした空間づくりを提案する、建築家の駒田由香さんと一緒に、これからの住まいに求められる新しいスタンダードについて考えました。

家にいながら外を感じる空間が大事

犬山:コロナで外出できなくなったときに感じたのは、家の中にいても外の空気に触れたい、という欲求だったんです。今日、こちらの建物を拝見してあらためて思ったのですが、ベランダが広々としていて、なおかつフェンス越しに外が見えるのって大事だなと。

わが家の場合、ベランダは目隠しフェンスになっていて、しかも安全のために上のほうまであるので、座ってしまうとただの壁なんですね。本当なら、気分転換にベランダで仕事したり、夜にちょっとお酒を飲んだりしたかったのですが、景色が見えないならあんまり意味がない。安全やプライバシーはもちろん大事なのですが、家にいながらにして外を感じられる空間って、とてもすてきだなと感じました。

犬山紙子さんと駒田由香さん

駒田:外出せずにリフレッシュできる場所として、屋上やベランダなど、「余白」を感じさせるスペースが、今見直されているのではないでしょうか。小さなベランダでも、室外機で埋めつくしてしまうのではなく、ちゃんと椅子が置けるとうれしいですよね。一見無駄に感じられるかもしれないけれど、用途の決まっていないスペースがあることで、心にも余裕が生まれるように思います。

犬山:余白は大事ですよね。子育てしていて感じるのは、自分の心に余裕があるときは、子どもがイヤイヤしてもかわいいと思えるんですよ。それが、ギリギリでやっているときは、つい、つらくあたってしまいそうになる。そういうときは、ベッドに逃げ込んでタイムを取って、余裕がちょっと復活するのを待つんです。住まいも同じことで、遊びや余白がないと閉塞感が増してしまう。特にコロナ禍では、閉塞感で心も圧迫される感じがすごくあったので、余白のある空間に救われるという感覚はよく分かります。

段差を設けた屋上
──駒田さんが設計した住宅のひとコマ。椅子・テーブル代わりになる段差を設けた屋上。ハイサイドライトとしての機能も──

駒田:以前、私たちが手掛けた住宅では、屋上に段差をつけて、そこに腰かけたり、椅子を持ってくればテーブルとしても使えたりするように設計しました。段差の立ち上がりの部分がハイサイドライトになっていて、リビングに光を取り入れることもできる。そんなふうに、余白のスペースに様々な機能を持たせることも可能です。

犬山:それはいいですね。私も自粛期間中、友人が屋上でエクササイズをしていると聞いて、とてもうらやましかったんです。屋上はいちばん身近な外だから、ぜひエンジョイしたいですね。

家の中に自分の「聖域」をつくるのがストレスフリーの秘訣

犬山:コロナ禍では、四六時中、家族と顔を突き合わせているのがストレスだ、という人も多くいました。わが家では、夫も私もフリーランスなので、基本的にはふたりして家にいるんです。なので「お互いの聖域を守る」のがルール。共有スペースのリビングなどは、互いに声をかけ合ってきれいにしていますが、相手の部屋に関しては、どれだけ散らかっていようが口を出さない。それが、ストレスなく一緒に暮らす極意だと考えています。ただ、状況によっては、家族ひとりひとりの個室が取れないこともありますよね。

駒田:完全に仕切られた個室にこだわらず、下がり壁や家具などを利用して、緩くエリアを区切るだけでも、ちょっとしたプライベート感は出せるのではないでしょうか。本棚を置いて視線が届かないようにするだけでも、効果があります。住まいに求める環境は時とともに変わるので、むしろそれくらい融通がきくほうが、長く住むには適しているかもしれませんね。

犬山紙子さんと駒田由香さん

犬山:確かに。子どもも成長しますしね。うちでも、娘が大きくなったら、やっぱり自分の部屋をあげたいなと思いますし、そうなれば夫か私のどちらかが部屋を明け渡さなくちゃならない。その場合、夫と私でひとつの部屋を仕切って使うという手もあるなと思いました。

駒田:わが家では、子ども部屋をつくらなかったんです。ただ、立っても顔が見えないくらいの高さの本棚でスペースを仕切りました。声は聞こえるし、そこにいる気配も分かるけれど、姿は見えない。実はそのくらいの距離感がいちばん心地よいんじゃないかと思っています。キッチンも、一般的に人気があるのはリビングを向いて料理するタイプのアイランドキッチンなのですが、うちでは壁を向いて料理してます。

犬山:すてきな距離感ですね。お子さんをずっと見張っているのもお互い気詰まりだけど、いるのかいないのか分からないというのも困る。お子さんとの距離感に迷う親御さんは多いでしょうから、距離感をサポートしてくれるような住まいだといいですね。

家族のメンバーがゆるく交わる動線をつくる

駒田:私も、距離感はとても大切にしています。逆に、家族のメンバーがすれ違いになってしまわないよう、それぞれが自分の部屋に入るまでに、必ずリビングを通るような動線を設けることも大事ですよね。動線が交わっていれば、子どものちょっとした変化にも気づきやすいですし、子どもから声をかけてくる機会も増えますから。

西葛西APARTMENT-2
──今回の対談場所は駒田さんが設計を手掛けた西葛西APARTMENTS-2(東京都江戸川区)。住居・コワーキングスペースに加え、1階にはベーカリーとカフェがある──

犬山:この「西葛西APARTMENT-2」もそんな雰囲気でつくっていらっしゃいますよね。コワーキングスペースの利用者の方と、1階のカフェやベーカリーのお客さんが、同じ動線で交わっていて、つかず離れずのコミュニティ感があります。

駒田:私自身、長くフリーランスでやってきたので、べったりとした近所づきあいは苦手なのですが、緩くコミュニティとはつながっていたいし、何かあったら助け合いたいという思いがありました。そこで、自然と人が集まってくるような場にしようという思いで設計したのが、このスペースなんです。2つの建物のあいだに余白として幅4mの通路を設け、住人から店舗の利用者まで、多様な人々の動線が交わるようにしました。

犬山:ウッドデッキの通路には、近所の人が道を歩いていても、思わずふらりと入ってきたくなりそうな雰囲気がありますね。

駒田:おかげさまで、今では、ここでマルシェを開いたり、子ども向けのイベントを開催したりと、着実に地域に根を張っています。1階のベーカリーは、コロナの自粛期間中も近所の皆さんがソーシャルディスタンスを取りつつ行列するほど人気だったんですよ。

犬山:こういう場の近くに住んでいると、都会に住んでいても孤立しないし、寿命が延びそうな気がします。コロナ後の住まいには、家の中はもちろん、周りの環境も含めて、他人とほどよくつながれることが求められていくのかもしれませんね。

●犬山紙子さん
コラムニスト。1981年大阪府生まれ。『すべての夫婦には問題があり、すべての問題には解決策がある』(扶桑社新書)ほか著書多数。近年は執筆業のみならず、TVコメンテーターとしても広く活躍中

●駒田由香さん
建築家。1966年福岡県生まれ。1989年九州大学工学部建築学科卒業。東陶機器(現TOTO)勤務、サティスデザイン勤務を経て1996年駒田建築設計事務所設立。2000年有限会社として共同設立

撮影/滝浦哲