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長く不動産の仕事をしていると、鍵を紛失して中に入れなくなった、という話をよく聞きます。
中には「鍵を持たずにオートロックの外に出てしまったので開けに来てください」というような例もあります。
私が不動産業界にいた19年の間に、マンションの設備は大きく変わりました。
オートロックと防犯カメラは、もはや標準装備と言っても良い必需品です。
しかし、防犯の基本は「戸締まり」というのは今も昔も変わっていません。
オートロックというものはその気になればいくらでも突破できるもので、「外部の人を侵入しにくくする」程度の機能しかありません。
また防犯カメラはそれ自体では外部の人の侵入を防ぐことはできません。
戸締りの要である鍵というものはそれだけ大事なのです。
■ニセ管理会社社員が鍵を複製して空き巣に入ったケースも

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昨年の報道だったと記憶していますが、カギを不正にコピーした男が空き巣に入った、という事件がありました。
手口としては、管理会社社員を名乗って部屋を訪問し「鍵を確認したいので見せてほしい」と言って鍵を出させ、表面に刻印されているナンバーをその場で控えるというものです。
どんなに複雑な構造の鍵でもナンバーさえわかれば複製できるのです。
分譲マンションでも賃貸マンションでも管理会社は部屋の鍵ナンバーを厳重に管理していますから、わざわざ部屋を訪問して確認するようなことは絶対にしません。
こういった怪しい話には十分に注意するようにしてください。
■「ピッキング」はもともと、犯罪の代名詞ではなかった

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外出先で鍵を紛失した場合、賃貸住宅は管理会社か大家さんが予備の鍵を持っていると思いますが、分譲マンションの場合は鍵屋さんの登場を願うしかありません。
鍵屋さんは鍵を使わずに開錠する技術と道具を持っており、これを通常ピッキングと呼んでいます。
現在では犯罪の代名詞的に使われているこの言葉も、もともとは悪い言葉ではなかったのです。
従来の鍵は道具さえあれば簡単に開くことを鍵屋さんは知っていましたが、決して悪用はしませんでした。
しかし、その道具とマニュアルが海外で広く出回ってしまいました。
外国人窃盗団が次々と入国し、ピッキングによる窃盗被害が激増するようになった背景にはこのような事情があったといいます。
ここから鍵メーカーと窃盗団のいたちごっこが始まるのです。
まず鍵の形状がピッキングのしにくいものに変わりました。
上が従来の鍵、下がピッキングのしにくいディンプルキーです。
そして、ダブルロックが普及します。
単純に同じ鍵を上下に2つにしただけですが、それだけでもピッキングにかかる時間は倍になります。
窃盗団は鍵をこじ開けようとして、平均5分を超えると断念すると言われています。
ピッキングしにくいディンプルキーが2つという事で、こじ開けるのに5分以上かかるようにしようとしています。
■意外と簡単にできてしまう!? 「サムターン回し」とは
窃盗団の新たな手口として登場したのが「サムターン回し」です。
サムターンとは、ドアの内側にある鍵を回すための金具です。
ドアスコープを外部から取り外し、そこから金具を差し込んでサムターンに引掛けて鍵を開けてしまうというものです。
これは意外と簡単にできてしまうようです。ここから金具を差し込みます。
こちらはサムターン回しに対応した鍵です。
両側からつまんで突起を押し込まないとサムターンが回らない構造になっています。
その他にサムターンの軸がぐらぐらしていて、しっかりと軸の中心で回さないと開かないというタイプもあります。
もっと簡単なものとしてはサムターンカバーというものもあります。
サムターンのまわりをカバーで覆って金具を引っ掛けられないようにすればいいのです。
また、ドアスコープは中で電気が点灯していると外部に明かりが漏れ、それにより在宅か否かわかってしまう場合があります。
それを防ぐため、最近のドアスコープはこのようになっています。
どれだけ戸締まりを厳重にしていても、空き巣を完全に防ぐことは難しいものです。
以前私が不動産の仕事をしていたときに経験した事例は、大規模修繕工事で掛けた足場を利用したものでした。

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まず玄関ドアのカギ穴に詰め物をして鍵を差し込めない状態にしておき、次に外壁に掛けた足場を伝ってバルコニーからガラスを破って室内に侵入したのです。
鍵穴を使用できないようにしたことで居住者が帰宅しても発見を遅らせることができるという巧妙な手口でした。
たとえ足場がかっていなくても屋上からロープで降りたり、外壁に設置してある配管を伝わって上るという事も可能です。
いかがでしたか。
空き巣に遭う確率を下げるためは、油断しないこと、これに尽きます。