東日本大震災の日、遠いトカイナカに住んでいた鳥夫婦。
鳥夫は都心に出勤中でしたが、鳥は在宅日でした。
最初は「ちょっと大きな地震だな」と構えた程度だったのが……、
あの、長い大きな揺れがいつまでも収まらない異常な状態に、
本能的な恐怖が湧き上がり、思わず部屋を飛び出しました。
同じように廊下に出てくる住人達。
普段はすれ違いの挨拶しかしないのに、
「怖いわねえ」「テレビ、見た? すごいことになっているわよ!」などと会話し始めました。
電車も止まってしまい、鳥夫が家に帰って来ない。
鳥は心細さに震え、一晩中テレビと電気をつけたまま、リビングで毛布にくるまって寝ました。
愛する鳥夫と会えたのは、電車が動き始めた翌日の早朝でした。
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■破格の未公開物件情報が入ってきた!!
こんにちは。
新宿に注文住宅を建てて暮らしている鳥です。
都心の土地を探し始めた当初、鳥夫婦は四ツ谷に住みたいと願っておりました。
JR山手線圏内のほぼ中央に位置する四ツ谷。
そう、四ツ谷だったら、もしまた同じ状況になっても鳥夫は歩いて帰ってこられます。
迎賓館も近いおっとりとした「土地のにおい」も相まって、鳥は四ツ谷に惚れみました。
しかし地価が高いっ!
今も「四ツ谷駅から徒歩10分以内」の土地を調べて出てきた物件が、21坪で9,990万円です。
とても庶民の鳥夫婦が買えるエリアではありません。
やきもきしながら毎日物件を漁っていたある時。
地元密着型の仲介業者J社から「20坪で3,000万円を切る」破格の未公開土地情報が送られてきたのです!
もちろん即座に見学の予約を取りました。
今でも鮮明に覚えておりますが、見学日は記録的大雪の日。
トカイナカに住んでいたため、行ったはいいが、電車が止まって帰れなくなる恐れもありました。
しかし破格の物件はスピードが命!
リスケなんて甘いこと言っていたら、ライバルに持っていかれてしまいます!
大雪にも負けず、はるばる電車に乗り、J社まで駆け付けました。
仲介業者さんにも社風があるのが面白いです。
営業さんの車で四ツ谷に行き、車を降りるとき、大雪のなか営業さん二人ともコートを脱いで案内しようとされました。
「あ、あの、コート着ないのですか?」と伝えたところ、
「着ても構いませんでしょうか?」と聞かれたので、
「え、もちろんです!!」と答えたところ、
「すみません、ありがとうございます」とコートを着込む営業さん達。
スーツも、カジュアル要素のない、いかにもな濃い色のスーツ。
このJ社さんは、ちょっと古い、いわゆる不動産屋さんのにおいのする仲介業者さんでしたね。
現場に着くと、他にも見学者が2組もいました。
やはり大人気らしい……。
土地を見学した結果、たいへん気に入ったので、その場で申込書に記入しました。
しかし営業さんから、
「あまりに安いので、分譲予定の5区画をまとめて買ってアパートを建てたいという方もいらっしゃって……。
売主の方としては分譲という手間がかからない方が楽なので……」
と雲行きのアヤシイ話をされました。
■売れ残りの建売住宅を勧められた!!
しかも、J社への帰り道、
「このすぐ近くに、最近300万円値下げされたばかりの家があるんですよ。見に行ってみます?」
と、サラッとまったく関係のない物件に連れていかれ、熱心なセールストークを受けました。
四ツ谷のおっとりした「におい」とはかけ離れた、寂れた暗い工場の隣に建つ、売れ残りの建売住宅。
ここで一人膝を抱えて鳥夫の帰りを待つ自分を想像したらゾッとしてしまい、
営業さんの渾身の説明も完全スルー。
とにかく早くこの暗い土地から立ち去りたい気持ちでした。
営業さんが運転しながら、支店長に電話をかけていました。
明言は避けておられましたが、「売れ残りの建売に連れて行ったけど、まったくダメでした」という報告電話であることがわかりました。
J社に戻ってからも、海千山千そうな年配の支店長さんが出てきて、
鳥をジッと見つめ、あの建売物件のどこが不満か聞いてきました。
イラッとして、「感覚で」とだけ答えました。
J社は、あの売れ残り物件を鳥夫婦に買わせたかったのでしょう。
しかし当時の鳥は四ツ谷しか眼中になく、まったく響く状態ではありませんでした。
むしろ逆に「あんな暗い土地で暮らすなんて嫌だ。やっぱり四ツ谷がいい」と燃え上がる始末。
J社もあっさり引き下がりました。
■四ツ谷で暮らす夢は叶うのか!?
それから数日間、J社から四ツ谷の結果がくるのを毎日やきもきして待っていました。
20坪で3,000万円を切る未公開物件。
なんとか、なんとか我々庶民に、四ツ谷という夢を見させてくれないか……っ!
……でも10日ほどして受けた連絡は、
「5区画まとめて売られることになりました」。
ガックリきました。
また四ツ谷の物件を待ち焦がれながら、やきもきする日々が始まるのか……。
破格の未公開物件はある。
しかしライバルは戸建ての施主だけじゃない。
プロ(不動産屋)や金持ち(オーナー)もいることを知った体験でした。
その土地には、今、賃貸マンションが建っています。
(鳥)