「マンションは管理を買え」が現実的には難しい理由って?

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「マンションは管理を買え」という言葉が一般的にも使われるようになってきましたが、それだけマンションにおける管理の重要性が認識されてきたようです。
この記事を書くためにインターネットで「中古マンション 管理」と入力して検索してみると、「買ってはいけない物件の見分け方」「管理がダメなマンションの見分け方」といった「ハウツー物」の記事が、上位10件のうちほとんど占めるような状況となっていました。
それだけ中古マンションを購入する際に管理を重視する傾向が強くなっていることを感じます。
しかし、不動産取引とマンション管理の両方を経験した筆者としては、どの記事も実務を知らない人が頭の中だけで書いた現実離れしているとしか思えないような内容ばかりでした。
今回はこの様な記事のどこに問題があるのか、実際の契約の流れの中でご説明します。
管理組合の様々な状況がわかるのは、実は契約直前

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中古マンションの取引においては、売主と買主を仲介会社が結び付けるのですが、売主の依頼を受けて物件を市場に出す会社(物元)と買主の依頼を受けて物件を市場から見つけてくる会社(客付け)の2社が間に入るのが通常です。
客付け業者が希望に合いそうな物件を買主に紹介し、それらの中から気になった物件を内見するところから不動産取引は始まります。
恐らく複数の部屋を見ることになると思いますが、買主はその中で買いたいと思った物件の物元業者に申し込み(買付け)を入れます。
申し込みが入ると物元と客付けの仲介業者は、お互い協力して契約の準備に入ります。

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物元業者は契約書と重要事項説明書(重説)を作成します。
物件が中古マンションの場合は重説に管理組合の様々な情報を記載しなければならず、そのため管理会社に対して「重要事項調査依頼」といった形式で開示請求します。
この請求には手数料が必要で、管理会社のHPを見ていただきますと「えっ!」と思うような金額であることがわかります。
しかし契約書類の作成にはどうしても必要で、契約してしまえば売主から仲介手数料がもらえるので、仲介業者は喜んで払うのです。
売主と買主は、このような流れで作成された契約書と重説の説明を受けた上で契約書類を取り交わします。
つまり買主が管理組合の詳細情報を知ることが出来るのは、実は契約直前の重要事項の説明においてということになるのです。
いいか悪いかは別として、これが通常の流れです。
資料の取り寄せが簡単ではない理由

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「買ってはいけない物件を見分ける」ため、気に入った物件に関しては総会議案書や議事録、長期修繕計画書といった資料を入手して精査することが勧められています。
こういった資料は管理に関心を持つ一部の人を除いて保管などしていないので、売主から入手することは期待しないほうがいいでしょう。
関係者が請求すれば閲覧できると定められている資料ではありますが、検討資料として手元に残すためには、申し込みを入れる前に管理会社から取り寄せるしかありません。
「申し込みを入れる前」ということは「買うか買わないかまだわからない状態で」資料を取り寄せるということです。
通常の重説作成用の開示請求ではないので、客付けの仲介業者を通して依頼することになります。
このようなイレギュラーな資料請求など筆者はこれまで一件も受けたことがありませんが、仮に受けた場合は手数料を請求することだけは間違いないと思います。

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手間もかかれば紙代もコピー代もかかる業務であり、「重要事項調査依頼」とのバランスを考えてもタダという訳にはいきません。
決して「何らかの事情があってチェックさせたくない」というのではありません。
仲介会社は契約成立時の仲介手数料しか客から貰うことが出来ないため、こういった費用が業者負担となります。
「買うかどうかも分からない状態」でこのような業務をやってくれるかどうか、私としては何とも言えませんが、仲介会社がいい顔をしないことだけは間違いないでしょう。
「仲介会社に頼んで取り寄せてもらいましょう」と軽い調子で書いている記事が数多くありますが、果たしてこのことを分かって書いているのでしょうか。
管理組合の資料は慣れないと読みこなせない

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渋る業者を押し切って仮に資料の入手が出来たとしても、今度はその中身を理解するのが大変です。
管理組合の資料には数字が膨大な量の数字が記載されており、一般の方が説明なしにその意味を理解するのは困難です(仲介会社の営業でも恐らくわからない)。
筆者はこれまで管理会社のフロントとしてそれなりに場数を踏んできましたので、総会議案書を見れば、そのマンションの現時点での財務状況はわかります。
しかし中古マンションを検討している方の場合、持ち家はこれが初めてという事例が多く、そのような方にとっては一般会計と修繕積立金会計に分かれたマンションの決算資料などこれまで見たことの無いものです。
「財務状況は適正か?」「修繕積立金は十分に貯まっているか?」「未収金が多すぎたりしないか?」などと言われても、そんなことわかるはずがないでしょう。
こういった資料の見方についてはまた別に機会を設けたいと思いますが、「議事録をしっかりと読めばすべてがわかる」というような簡単なものでありません。
検討に時間をかけすぎるとその間に部屋がなくなる

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入手した資料の意味が理解できたとしても、内見時に気になったすべての物件をシビアにチェックしていると、それなりに時間がかかります。
一方で、不動産の購入はこれといった事情のない限り、一瞬でも先に申し込みを入れた者が最優先される早い者勝ちの世界です。
タッチの差で物件を取り逃がしたことは筆者もこれまで何度となくあり、営業マンが決断を迫る時の常套句である「早く決めないと部屋が無くなりますよ」はあながち嘘ではないのです。
検討に時間をかけすぎるとその間に魅力的な物件はすべて他決してしまい、気が付いたら誰も見向きもしないような物件しか残っていないという事態になりかねません。
不動産の購入というものは勢いというのも大切であると思います。
では、どうやってマンションを選べばいいのか?

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今回は管理の良し悪しを見分けることがいかに難しいことなのか、中古マンションの契約までの実際の流れの中でご説明しました。
いいか悪いかは別問題として、これが不動産取引の現実の姿です。
「買ってはいけないマンションの見分け方」といった記事を書いているのは、ほとんどの場合、一級建築士や不動産コンサルタントといった人々ですが、契約事務や総会の運営といった業務に直接従事することのない人々ですので、実務上で発生する様々な問題点については御存じないようです。
マンション管理の良し悪しというものは外部の人が簡単に見分けられるようなものではない、ということはこれまでも度々書いてきました。

ふじよ / PIXTA(ピクスタ)
私が言えることは「大手が管理している大規模物件を狙え」ということだけです。
大手の管理会社なら中小より人材が豊富ですが、大規模物件ではその中でも優秀な人材が配置されます。
そういった物件は管理会社としても重要であるため、絶対に管理を切られることがあってはならないからです。
さらに課長、支店長といった複数の眼でチェックされることにより、適正な管理が行われている確率が高いと言えると思います。