「マンションには面倒な近所づきあいがない」は間違い!? 実は「運命共同体」である理由とは?

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「マンションに住む」とは、どういうことなのでしょうか。
マンションに入居した途端、管理費や修繕積立金が発生し、管理組合への参加や管理会社との付き合いなど、今まで聞いたこともないような事態に対応しなければなりません。
「マンションに住む」ことの意味がよくわからないまま……。
これまで数多くのマンションを取材してきた筆者は、マンションこそ「現代の長屋」だと考えています。
マンションの購入を考えている人、最近マンション暮らしを始めたばかりという人に、その理由をご説明していきたいと思います。
マンションを選んだのはなぜ? マンション暮らしのメリットを考える

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現在分譲マンションに住んでいる方、マンション購入を検討している方は、なぜマンションを選んだのでしょうか?
戸建てと比較したとき、マンションにはいくつものメリットがあります。思いつくままに上げてみましょう。
- 建物が堅牢である→地震などに強い
- 同じ立地だと一戸建てより価格が安い
- メンテナンスや清掃等の管理業務をする必要がない
- セキュリティが強固
- 断熱性が高い
- 共用施設やサービスが無料または安価で使える
- 近所づきあいをしなくてすむ
こんなところでしょうか。

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もちろんメリットばかりではなく、管理費や駐車場代が高い、庭が(ほとんど)ない、管理規約による制約が多い、
などのデメリットももちろんあります。
しかし中には、「マンションは近所づきあいが大変」という意見もあります。
「近所づきあいをしなくてすむ」というメリットがあるはずのマンションで、それが「大変」とはどういうことでしょうか。
面倒な「近所づきあい」はある?ない? マンションに住んで、取材して分かったこと
確かに、「マンションには面倒な近所づきあいがないから楽」という話はよく聞きます。
以前、マンションのコミュニティに対する取り組みを紹介したテレビで、コメンテーターをしていた女性タレントが、
「私にはこういうの無理。そもそも、あいさつ程度の関係でいいと思ってマンションを買っているのに……」と言っていたのを聞きました。
筆者はコメンテーターとして出演している人がこういった発言をしたことに愕然とする一方で、「実際にこういう人は多いんだろうな」と妙に納得もしました。

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しかし、自分自身を振り返ると筆者がマンションに住んでいた10年間、近所づきあいのことなど考えもしませんでした。
どちらかというと、あまりしないほうだったかもしれません。
ライターとして多くのマンションを取材し、管理組合の苦労やコミュニティへの取り組みについて知っていくうちに、やっとわかったのです。
マンションとは「現代の長屋」だと。
区分所有で命運を共にするマンションは「現代の長屋」

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江戸時代、町人の暮らしの場だった長屋は、ひと区画の敷地内に建つ「共同住宅」でした。
ほとんどが借家だったことや大家と呼ばれる世話人がいたことなどとの違いはありますが、同一敷地内に建つ共同住宅で、井戸やトイレなどの共用施設がある、という点では今のマンションと同じです。
そして「近所づきあい」という点で見ると、長屋には濃密といえるほどの関係があったといわれています。
長屋では、上下水道やトイレ、井戸、ゴミ置き場などは、長屋の住人全員で使用する「共用施設」でした。

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そうなれば、自ずとその使用方法について住人間で「暗黙のルール」が定められたことでしょう。
誰かがひどい使い方をしたことで、共用施設が壊れたり、使えなくなったりしては大変だからです。
「井戸端会議」といわれるように、共同の井戸の周りでは主婦たちが集まって毎日おしゃべり。
大家さんは住人の親、ともいわれるほど面倒を見たそうです。
共用部に対する暗黙のルールは、濃いコミュニケーションによって支えられていたのではないでしょうか。
マンションに住むという権利を得るのと同時に義務・責任も発生する
同じように、マンションにも共用部分があります。
エントランスやエレベーター、階段、駐車場、集会室……、玄関ポーチもベランダも玄関ドアの表側も専有部ではなく共用部です。

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マンションは、建物や土地などマンションの資産を居住者全員で「区分所有」するという考え方に基づいています。
皆さんも一度はこの区分所有という言葉を聞いたことがあると思いますが、覚えておいてほしいのは、自分が購入した部屋(=専有部)だけでなく、共用部分も区分所有するということです。
マンションの法律である「区分所有法」には、共用部分の持分の割合を定めた箇所に「各共有者の持分は、その有する専有部分の床面積の割合による」とあります。
つまり、居住者がそれぞれ持っている専有部分の床面積によって、各共用部の持分も決まっているということです。
「持分権」という権利を有するということは、それに伴い義務・責任を有するということ。

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もしも、居住者の中の誰かがエントランスを汚してそのままにしていたら、ほかのみんなは迷惑ですよね?
エントランスの汚いマンションは、売るときに値が下がってしまいます。
つまり、同じ建物内で暮らしている以上、マンションの資産価値を守るために、マンション居住者は「運命共同体」となったということなのです。
いかがでしたか?
「運命共同体」というと少し大げさですが、要は「同じ建物に一緒に暮らす」ということは「その建物を一緒に守る義務がある」ということ。
そして、現代版長屋であるマンションでは、長屋ほどの濃密すぎるコミュニティではなく、それこそ「現代版」の長屋的コミュニティをつくる必要があるのではないでしょうか。
次回はこの共用部について、筆者が実際に経験した事例を踏まえて、もう少し踏み込んで考えてみたいと思います。
(written by 殿木真美子)
【参考資料】